- 2026年11月3日
【肝臓病専門医が解説】もの忘れや昼夜逆転は肝性脳症のサイン?アンモニアを下げるタウリンと栄養管理

こんにちは。
神戸市西区のさいとう内科クリニック院長の斉藤雅也です。
今回は、肝硬変の方にとって特に注意が必要な合併症「肝性脳症」についてお話しします。肝性脳症は「気がついたら意識がぼんやりしていた」「家族の言動がおかしくなった」という形で現れることが多く、早期発見と適切な治療が患者さんの生活の質を守る上で非常に重要です。
当院では肝臓病専門医として、この合併症に対して最新のエビデンスに基づいたアプローチを行っています。
■ 1. 肝性脳症とは何か—肝臓が担う解毒機能の破綻

肝性脳症とは、肝臓の機能が著しく低下することによって、本来肝臓で無毒化されるべき物質(とりわけ腸内細菌が産生するアンモニア)が血液中に蓄積し、脳に影響を与える状態です。健康な肝臓は、腸から門脈を経由して運ばれてくるアンモニアを尿素回路(オルニチンサイクル)で尿素に変換し、体外へ排出しています。しかし、肝硬変などで肝細胞が大幅に失われると、この解毒作業が滞ります。
肝性脳症は「ウェスト・ヘブン分類」で0〜4度に段階分けされます。
| グレード | 症状 | 臨床所見 |
| 0度(潜在性) | 自覚症状なし | 心理テスト・神経心理テストでのみ判明 |
| 1度 | 軽度の集中力低下・記憶障害 | 倦怠感、睡眠リズムの乱れ |
| 2度 | 時間・場所の見当識障害 | 性格変化、羽ばたき振戦(asterixis) |
| 3度 | 著しい混乱・傾眠 | 発語不明瞭、奇異な行動 |
| 4度 | 昏睡 | 刺激に無反応 |
特に潜在性肝性脳症(0度)は患者さん本人が気づかないまま過ごしているケースが多く、転倒や交通事故のリスクが高まるため、肝硬変の方には定期的な認知機能チェックが推奨されます。
■ 2. アンモニアと腸内細菌—肝性脳症を悪化させる腸管の異変

アンモニアの主な産生源は腸管内の細菌です。腸内に生息する細菌がタンパク質・アミノ酸・尿素を分解することでアンモニアが生じ、腸壁から吸収されて門脈へ流れ込みます。肝硬変では、門脈圧の上昇により門脈血の一部が肝臓を迂回して全身循環へ流れる「門脈肝静脈シャント」が形成されることがあり、これがアンモニアの蓄積をさらに悪化させます。
近年の研究では、腸内フローラの構成が肝性脳症の発症・重症度と密接に関連することが明らかになっています。肝硬変患者ではビフィズス菌などの善玉菌が減少し、アンモニア産生菌(Proteobacteriaなど)が増加していることが報告されています。この観点から、プロバイオティクスの活用が肝性脳症の予防戦略として注目されています。
肝性脳症の主な誘因:
| ①過剰な利尿剤使用による脱水・低ナトリウム血症 ②消化管出血 ③細菌性腹膜炎などの感染症 ④便秘 ⑤過剰なタンパク質摂取 ⑥鎮静剤・睡眠薬の使用 |
■ 3. タウリンと肝性脳症—院長による研究

当院の院長である私は、肝性脳症とタウリン・栄養管理の関係について臨床研究を行ってきました。タウリンは含硫アミノ酸の一種で、肝臓の解毒作用を補助し、胆汁酸代謝を調整する働きをもちます。健康な成人では体内でシステインから合成されますが、肝機能が低下すると産生能力が落ちるため、食事や補充による摂取の重要性が増します。
タウリンを豊富に含む食品:あさりやはまぐりなどの二枚貝、たこ・いか、牡蠣などの魚介類。
肝硬変の患者さんが適切にタウリンを補給することで、アンモニア処理の補助的な効果が期待できます。
※出典:院長論文
■ 4. 肝性脳症の現代的治療法

【アンモニア産生の抑制】
ラクツロース(便通促進+腸管内pH低下でアンモニア吸収抑制)・リファキシミン(腸管内細菌に選択的に作用する抗菌薬)の使用。特にリファキシミンは肝性脳症の再発予防に有効と報告されています。
【タンパク質・栄養の適切な管理】
かつては「タンパク質制限」が推奨されていましたが、現代のガイドラインでは「むやみなタンパク質制限はサルコペニアを招き、かえって予後を悪化させる」として見直されています。分岐鎖アミノ酸(BCAA)は肝臓でなく筋肉で代謝されるため、肝硬変患者の栄養源として積極的な活用が推奨されています。就寝前のBCAA補充(夜間スナック)により夜間の筋タンパク異化を防ぐことも重要です。
【亜鉛補充療法】
亜鉛欠乏がアンモニアの代謝障害に関与することが知られており、亜鉛補充療法も肝性脳症改善に有効とされています。
【誘因の除去】
感染症・消化管出血・便秘・脱水・過剰な鎮静剤使用などを管理し、誘因を積極的に排除します。
■ 5. 当院での診断・治療アプローチ
当院では、肝硬変と診断された患者さんに対して定期的な血中アンモニア測定・肝機能検査(ALT・AST・γ-GTP・アルブミン・総ビリルビン・コリンエステラーゼ・プロトロンビン時間)・腹部超音波検査を実施し、肝性脳症の前兆を早期に把握することに努めています。患者さんの肝予備能・食習慣を個別に評価したうえで、食事指導とBCAA製剤の内服を組み合わせた管理を行います。
「最近物忘れが増えた」
「家族に言動がおかしいと言われた」
「頭がぼんやりする」
「昼夜逆転している」
こんな症状がある肝硬変の方は、ぜひ一度ご相談ください。
■ 6. よくある質問(Q&A)

Q1. 肝性脳症はどのような検査で診断しますか?
A. 血中アンモニア測定(空腹時80μg/dL以上が異常)、フリッカー検査・数字つなぎテストなどの神経心理テストを組み合わせて診断します。
Q2. 肝性脳症の予防のために日常生活で気をつけることは?
A. ①便秘を防ぐ(食物繊維・水分摂取、ラクツロース内服)、②過剰なタンパク質の一度摂取を避ける(複数回に分けて摂取)、③感染症・発熱時はすぐに受診、④むやみな鎮静剤・睡眠薬使用を避ける、⑤脱水に注意する(特に夏場)。
Q3. リファキシミンはどれくらいの期間服用しますか?
A. 肝性脳症の再発予防のために長期服用されるケースが多く、通常は肝機能が改善するまで継続します。服薬期間は主治医と相談しながら個別に決定します。
■ 7. まとめ・受診のご案内

肝性脳症は、肝硬変の患者さんにとって最も警戒すべき合併症の一つです。アンモニアを中心とした有害物質の蓄積によって引き起こされるこの状態は、早期発見と適切な栄養・薬物治療によって大幅なリスク軽減が可能です。
腸内環境の整備・便通コントロール・タウリンや亜鉛を含む適切な栄養摂取・BCAAの補充を組み合わせることで、肝性脳症の発症・再発を防ぎ、日常生活の質を維持することができます。
当院では肝臓病専門医として、患者さん一人ひとりの状態に合わせた肝性脳症の予防・治療を行っています。肝硬変と診断されている方、「肝臓が悪い」と指摘を受けたことがある方は、ぜひお気軽にご相談ください。
- 院長
- 斉藤雅也 Masaya Saito
日本肝臓学会 肝臓病専門医 Hepatologist, The Japan Society of Hepatology - 所在地
- 〒651-2412
兵庫県神戸市西区竜が岡1-15-3
(駐車場18台あり) - 電話
-
- 電話:078-967-0019
- 携帯電話:080-7097-5109
- アクセス
- 当院は、神戸市西区と明石市の境界付近に位置しており、明石市からも徒歩圏内です。実際に、明石市方面からも多くの患者様(肝臓病・一般内科)にご来院いただいております。駐車場も完備しておりますので、お車での通院も便利です。
