- 2025年10月20日
MASH治療の最前線。期待の治療薬とその先を見据えた「肝臓再生医療」

「食事や運動を頑張っているのに、肝臓の数値がなかなか改善しない…」
「すでに肝臓の線維化が進んでいると言われ、打つ手がないのではないかと不安を感じている…」
MASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)の治療において、生活習慣の改善が基本であることは間違いありません。しかし、それだけでは改善が難しい方や、すでに病気が進行してしまった方がいらっしゃるのも事実です。
ですが、どうか諦めないでください。近年、MASHの治療は新たな時代に突入し、これまでになかった選択肢が次々と登場しています。今回は、MASH治療の最前線である「最新の薬物療法」と、さらにその先を見据えた「肝臓再生医療」について解説します。
【第1章】MASH治療を変えるか?新時代の治療薬「GLP-1受容体作動薬」と「GIP/GLP-1受容体作動薬」

長年、MASHには特効薬と言えるものがありませんでした。しかし、その状況を大きく変える可能性を秘めているのが「GLP-1受容体作動薬」や「GIP/GLP-1受容体作動薬」です。
この薬は、元々2型糖尿病や肥満症の治療薬として使われていましたが、MASHに対しても驚くべき効果が報告されています。
なぜ「GLP-1受容体作動薬」や「GIP/GLP-1受容体作動薬」がMASHに効くのか?
この薬は、単に血糖値を下げるだけではありません。
- 食欲を抑制し、体重減少を促す
- インスリンやグルカゴンの働きを改善し、代謝異常の根本にアプローチする
- 肝臓の脂肪蓄積や炎症そのものを抑える
このように、MASHの根本原因である「代謝機能障害」と、結果として生じている「肝臓の炎症」の両方に直接アプローチできるのが大きな強みです。
海外で報告された最新の研究では、これらの薬を投与された多くのMASH患者さんで、肝臓の炎症の改善が認められました。これは、MASH治療が新たなステージに入ったことを示す、まさに希望の光と言えるでしょう。
【第2章】線維化・肝硬変への挑戦。「肝臓再生医療」という次の一手

「GLP-1受容体作動薬」や「GIP/GLP-1受容体作動薬」は非常に有望な治療法ですが、すでに肝臓の線維化が進行し、硬くなってしまった状態(肝硬変)を元通りにすることは容易ではありません。
そのような肝硬変の状態に対して、当院が特に力を入れているのが「肝臓再生医療(幹細胞治療)」です。「肝臓再生医療(幹細胞治療)」を行うことにより、肝臓の炎症の改善のみならず、肝臓の線維化の進展抑制や線維化の改善にも働きかけることができます。
これは、従来の治療法とは全く異なるアプローチです。薬で症状を抑えるのではなく、患者様ご自身の細胞が持つ「修復能力」を引き出し、肝臓そのものの再生を促すことを目指しています。
肝臓再生医療の実際

- 患者様ご自身のおしりから、ごく少量の脂肪を採取します。
- その脂肪から「幹細胞」という、体の様々な細胞になる能力を持つ幹細胞を取り出し、培養して増やします。
- 培養した幹細胞を、点滴で再び患者様の体内に戻します。
体内に戻した幹細胞は、傷ついた肝臓に自ら集まっていく性質があります。そして、肝臓内の炎症を鎮め、硬くなる原因である線維化を抑制する働きをします。
これは、出てきた症状に対処する「対症療法」ではなく、肝臓が本来持っている回復力を高め、病気の進行を根本から食い止めようとするアプローチなのです。
【第3章】自分にはどの治療がふさわしい? 肝臓病専門医への相談が不可欠です

「GLP-1受容体作動薬」や「GIP/GLP-1受容体作動薬」と「肝臓再生医療」。これらの新しい治療法は、それぞれ適した患者様の状態が異なります。
- GLP-1受容体作動薬や「GIP/GLP-1受容体作動薬」は、主に肥満や糖尿病を合併している、比較的早期〜中期のMASH患者様にとって非常に良い選択肢となります。
- 肝臓再生医療は、従来の治療では改善が難しかった、線維化が進行したMASHや肝硬変の患者様にとっての新たな選択肢となります。
ご自身の肝臓が今どのような状態で、どの治療法が最も適しているのかを判断するには、最新の知見と多くの臨床経験を持つ肝臓病専門医による正確な診断が不可欠です。

MASHの治療は、もはや「生活習慣を改めるしかない」と諦める時代ではありません。科学の進歩により、私たちは次々と新しい武器を手にしています。
大切なのは、ご自身の状態を正しく知り、「まだ打つ手はある」という希望を持つことです。
さいとう内科クリニックでは、初期の脂肪肝に対する生活指導から、最新の薬物療法、そして進行した肝疾患に対する再生医療まで、一貫して患者様の未来をサポートする体制を整えています。ご自身の肝臓のことでお悩みの方は、ぜひ一度、私たちにご相談ください。