- 2025年10月23日
健康診断の「AST(GOT)」って何?数値が高い原因と放置するリスクを徹底解説

「健康診断の結果、AST(GOT)の項目にチェックが付いていた…」
「特に症状はないけれど、このままにしておいて大丈夫?」
健康診断の結果を受け取って、このように思われた方も多いのではないでしょうか。
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、ダメージを受けてもなかなか自覚症状が現れません。そのため、AST(GOT)のような血液検査の数値は、肝臓が発している数少ない”SOSサイン”であり、それを正しく理解することが、将来の健康を守るための第一歩となります。
この記事では、神戸市西区のさいとう内科クリニックの肝臓病専門医が、AST(GOT)とは何か、なぜ数値が高くなるのか、そしてその数値を放置した場合の深刻なリスクについて、詳しく解説します。
1. AST(GOT)とは?―肝臓からのダメージを知らせる酵素

AST(GOT)とは、「アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ」という酵素の略称です。主に肝臓の細胞内に存在し、私たちが食事から摂った栄養(アミノ酸)をエネルギーに変えるための重要な働きを担っています。
通常、ASTは肝細胞の中にいますが、何らかの原因で肝細胞がダメージを受けて破壊されると、血液中に漏れ出してきます。つまり、血液中のASTの数値が高いということは、肝細胞が壊れているサインなのです。
なぜ「ALT(GPT)」と一緒に見る必要があるの?
健康診断では、必ずと言っていいほどASTとセットで「ALT(GPT)」という数値が記載されています。これは、ASTが肝臓だけでなく、心臓の筋肉(心筋)や骨格筋などにも存在するためです。
- ALT(GPT): ほとんどが肝臓にしか存在しないため、ALTが高い場合は肝臓の異常が強く疑われます。
- AST(GOT): 肝臓以外にも含まれるため、ASTだけが高い場合は、心筋梗塞や筋肉の病気の可能性も考えられます。
このため、両方の数値を比較することで、ダメージの原因がどこにあるのかをより正確に推測できるのです。
2. ASTの数値、どう見る?―ALTとのバランスが鍵
ASTとALTの数値は、ただ高いか低いかだけでなく、どちらがより高いかというバランスも重要です。
| ASTとALTのバランス | 考えられる主な状態 |
| ALT > AST | 脂肪肝、慢性肝炎など、比較的緩やかに肝細胞の破壊が続いている状態。 |
| AST > ALT | アルコール性肝炎、肝硬変、肝がんなど、病状が進行している状態や、急激な肝細胞の破壊が起きている状態。 |
一般的に、AST・ALTともに基準値である30 U/L以下が望ましいとされています。51 U/Lを超えると「異常」と判断され、肝臓病専門医による精密検査が推奨されます。
3. ASTが高くなる主な原因とは?

ASTの数値が上昇する背景には、様々な肝臓の病気が隠れています。
① 脂肪肝(アルコール性・非アルコール性)
最も頻度の高い原因の一つが「脂肪肝」です。過度な飲酒によるアルコール性脂肪肝のほか、お酒を飲まない人でも食べ過ぎや運動不足、肥満によって肝臓に脂肪が溜まる代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)が増加しています。
② アルコール性肝障害
長期にわたる過剰な飲酒は、アルコールを分解する過程で肝細胞を直接傷つけ、ASTを上昇させます。
③ ウイルス性肝炎
B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスの感染によって肝臓に炎症が起き、肝細胞が破壊されることで数値が上昇します。
④ その他の原因
薬の副作用(薬物性肝障害)や、免疫の異常によって自身の肝臓を攻撃してしまう自己免疫性肝炎など、様々な原因が考えられます。
4. 高いAST値を放置するリスク―「沈黙の臓器」だからこそ怖い

ASTが高い状態を放置する最大のリスクは、自覚症状がないままに病気が深刻な段階へと進行してしまうことです。
例えば、初期の脂肪肝であれば、生活習慣の改善によって正常な肝臓に戻ることが可能です。しかし、それを放置して肝臓に負担をかけ続けると、
| 脂肪肝 → 肝炎(MASHなど) → 肝硬変 → 肝がん |
というように、後戻りのできない深刻な病気へと進行してしまう危険性があります。
肝硬変や肝がんになってからでは、治療は非常に困難になります。健康診断での「AST高値」という指摘は、取り返しのつかなくなる前に肝臓をケアする絶好の機会なのです。
5. 健康診断で異常を指摘されたら、肝臓病専門医による精密検査を

もし健康診断でASTの異常を指摘されたら、症状がないからと安心せず、必ず消化器内科、特に肝臓病専門医の診察を受けてください。
肝臓病専門医のもとでは、まず詳しい血液検査で肝炎の原因精査を行うとともに、腹部超音波(エコー)検査を行います。エコー検査は、体に負担をかけることなく、肝臓に脂肪が溜まっていないか、硬くなっていないか(肝硬変の兆候)、腫瘍ができていないかを直接目で見て確認できる非常に重要な検査です。
当院では、日本肝臓学会肝臓病専門医が、数値を多角的に分析し、エコー検査を駆使してあなたの肝臓の状態を正確に診断します。
AST(GOT)は、あなたの「沈黙の臓器」が発する重要なサインです。数値が高い背景には、脂肪肝やアルコール、ウイルスなど様々な原因が考えられますが、自覚症状がないからと放置してしまうことが、肝硬変や肝がんといった深刻な病気へとつながる最大のリスクです。
健康診断での異常値は、病気の宣告ではなく、あなたの体を守るための大切な「きっかけ」です。そのサインを見逃さず、ぜひ一度、私たち肝臓病専門医にご相談ください。