• 2025年10月23日

【肝臓病専門医が教える新常識】運動と食事で肝臓を守る方法

神戸市西区のさいとう内科クリニック院長の斉藤雅也です。

「脂肪肝ですね」。

健康診断でそう告げられ、漠然とした不安を抱えている方はいらっしゃいませんか?

日本人の成人のおよそ3人に1人が罹患している脂肪肝は、もはや国民病とも言えます。

多くの方が「少しお酒を控えて、運動すればいいのだろう」とお考えかもしれません。その通りなのですが、この記事では、なぜ食事と運動が重要なのか、その「メカニズム」から具体的な「実践法」まで、最新の科学的根拠に基づいて一歩踏み込んで解説します。


第1章:あなたの肝臓は悲鳴をあげている?「脂肪肝」の本当の怖さ

肝臓は、痛みを感じる神経が内部にないため、ダメージが蓄積しても自覚症状がほとんど現れません。これが「沈黙の臓器」と呼ばれる所以です。

問題なのは、単に脂肪が溜まっているだけの「脂肪肝」から、「MASH(マッシュ:代謝機能障害関連脂肪肝炎)」へと病状が進行することです。MASHとは、溜まった脂肪が原因で肝臓に炎症が起き、細胞が壊れ始めている危険な状態を指します。

この炎症を放置すると、壊れた細胞を修復しようとする過程で「線維(せんい)」という硬い組織が増え、肝臓全体が硬くなってしまう「線維化」が進みます。この最終段階が、もはや元の機能を取り戻せない「肝硬変」であり、さらには「肝がん」へと至るリスクが飛躍的に高まるのです。


第2章:常識をアップデート!アルコールと肝臓の不都合な真実

2025年に権威ある肝臓学専門誌「ジャーナル・オブ・ヘパトロジー」に掲載された、6万人以上を対象とした大規模研究は、私たちに2つの衝撃的な事実を突きつけました。

1.少量飲酒でもリスクはゼロではない

いわゆる「少量」の飲酒(女性1日1杯未満、男性2杯未満)ですら、非飲酒者と比べ肝臓関連死のリスクが約8%上昇しました。これまで信じられてきた「適量なら安全」という神話は、もはや過去のものかもしれません。

2.「ビンジドリンキング(一気飲み)」は特に危険

短時間で大量に飲酒する「ビンジドリンキング」(2時間以内に女性4杯、男性5杯以上が目安)は、肝臓へのダメージが特に深刻です。この習慣がある人は、そうでない人と比べて死亡リスクが男性で1.5倍、女性では2.5倍以上に跳ね上がりました。女性の方がリスク上昇率が高いのは、体格や水分量、アルコール分解酵素の働きの違いなどが影響していると考えられています。


第3章:肝臓を再生に導く「食事術」とは?

朗報は、同研究で「健康的な食事」がアルコールの害を劇的に軽減させることが証明された点です。多量飲酒者ですら、食事に気を付けることで死亡リスクを最大86%も低減できたのです。

1.なぜ「果糖」は特に避けるべきか?

ご飯やパンに含まれる「ブドウ糖」は全身の筋肉や脳のエネルギー源となります。一方、果物やジュースに含まれる「果糖」は、そのほとんどが肝臓でしか代謝されません。そのため、過剰に摂取すると肝臓にダイレクトに負担がかかり、効率よく中性脂肪へと変換されてしまうのです。果物はビタミンも豊富ですが、1日握りこぶし1個分程度を目安にしましょう。

2.「健康的な食事」の具体的な中身

米国のHEI(健康食指数)などを参考に、以下の食事を心がけましょう。

  • 積極的に摂りたい食品: 全粒穀物(玄米、オートミール)、色とりどりの野菜、魚や肉、植物性タンパク質(豆腐、納豆)
  • できるだけ控えたい食品: 加工肉(ハム、ソーセージ)、精製された穀物(白米、白いパン)、そして何よりジュース

3.コーヒーが持つ、科学的な力

1日2〜3杯のコーヒーは、肝臓の守護神となり得ます。コーヒーに含まれるポリフェノールの一種「クロロゲン酸」やカフェインには強い抗酸化作用・抗炎症作用があり、肝臓の炎症や線維化を抑制する可能性が多くの研究で示されています。


第4章:脂肪を燃やすだけじゃない!肝臓が喜ぶ「運動術」

運動は、食事と並ぶもう一つの強力な武器です。特に「有酸素運動」と「筋トレ」の二刀流は、最強の組み合わせと言えます。

有酸素運動(ウォーキング、ジョギングなど)

肝臓に溜まった脂肪を直接エネルギーとして燃焼させます。まずは「少し息が弾み、汗ばむくらいの早歩きを1回30分、週3日(合計90分)」を目標にしましょう。30分連続と言わず、細切れの時間で早歩きをするのでも構いません。

筋トレ(スクワット、腕立て伏せなど)

筋肉は、体内で最も多くの糖を消費する「巨大な臓器」です。筋トレで筋肉量を増やすと、食後の血糖値が上がりにくくなります。これにより、血糖値を下げるホルモン「インスリン」の効きが悪くなる「インスリン抵抗性」が改善します。インスリン抵抗性は脂肪肝の大きな原因の一つであるため、筋トレは肝臓への負担を根本から減らす効果があるのです。週2〜3回の筋トレを習慣に加えるのが理想です。


パーソナライズされた肝臓ケアの時代へ

ここまで見てきたように、「お酒を飲むからダメだ」と悲観する必要はありません。アルコールのリスクを正しく理解し、科学的根拠のある「食事」と「運動」を実践すれば、未来は大きく変えられます。

重要なのは、ご自身の飲酒量、食生活、運動習慣、そして血液検査や腹部エコー(超音波)検査の結果などを総合的に評価し、あなただけの改善プランを立てることです。

健康診断で肝臓の数値が良くないと指摘された方、ご自身の生活習慣に不安がある方は、決して放置せず、お気軽に当院までご相談ください。肝臓病専門医の立場から、あなたの肝臓を守るための最適なプランを一緒に考えさせていただきます。

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