• 2025年12月9日

【沈黙の臓器のトリセツ】肝臓の「500の仕事」を知る!

疲れやすい、むくむ…その不調はSOSサインかもしれません

皆様は、ご自身の肝臓が毎日どんな仕事をしているか、意識されたことはありますか?

肝臓は、成人で1.0~1.5kgと人体で最も大きい臓器であり、約500以上もの仕事を黙々とこなし、私たちの生命維持に不可欠な役割を担っています。

しかし、その働きぶりとは裏腹に、肝臓は非常に高い再生能力を持つため、機能が75〜80%低下しても自覚症状が出にくいという特徴があります。そのため、「沈黙の臓器」と呼ばれ、症状が出た時には病気がかなり進行しているケースが少なくありません。

この記事では、肝臓の主要な働きと、その機能が低下したときに見逃してはいけない体からのSOSサイン、そして肝臓の健康を守るための対策について、専門医の視点から詳しく解説します。


1.肝臓の主要な3つの働き:体の「化学工場」の役割

肝臓の多岐にわたる機能の中でも、特に重要なのは以下の3つです。

代謝・貯蔵・合成

肝臓は、胃や腸で消化吸収された栄養素を体で使える形に加工し、貯蔵・供給する代謝の中枢です。

  • エネルギー供給と血糖調節: 食事から摂った糖質をグリコーゲンとして備蓄し、必要に応じてブドウ糖として血中に放出し、血糖値を一定に保ちます。脳の主要なエネルギー源であるブドウ糖の供給も担っています。
  • タンパク質の合成: 血液中の水分バランスを保つアルブミンや、出血を止めるための血液凝固因子など、生命維持に必要なタンパク質を毎日約50g合成しています。
  • 脂質代謝: コレステロールやリン脂質の合成・分解を行い、血中のコレステロール濃度を調整する役割もあります。

解毒・分解(デトックス)

肝臓は、体内に取り込まれたり、代謝の過程で生じたりする有害物質を分解し、無毒化して体外へ排泄する「体のフィルター」の役割を担います。

  • 有害物質の処理: アルコール、薬、そして栄養素の代謝によって生じるアンモニアなどの有害物質を無害な尿素に変え、尿中や胆汁中に排泄します。
  • クッパー細胞:肝臓内に入った毒素や異物を食べることで解毒を助けています。

胆汁の生成・排泄

肝臓は、コレステロールと胆汁酸から胆汁を作り出し、その胆汁には脂肪の消化吸収を助ける働きがあります。

また、古くなった赤血球の分解物である「ビリルビン」など、肝臓で処理された不要物を排泄する役割も担っています。


2. 肝臓からのSOSサイン:見逃してはいけない体と顔の変化

肝機能が低下し、これらの重要な働きが十分に果たせなくなった状態を肝機能障害と呼びます。初期の代償性肝硬変の段階では無症状のことが多いですが、進行して非代償性肝硬変になると、命に関わる深刻な症状が現れます。

肝臓の機能低下によって現れる主なサイン

症状関連する機能低下詳細
全身倦怠感・疲労感代謝・解毒機能の低下エネルギー不足や有害物質(アンモニアなど)の蓄積が原因。十分寝ても疲れが取れない場合は要注意です。
黄疸・全身のかゆみ胆汁生成・排泄機能の低下ビリルビンがうまく排泄されず血液中に溜まり、皮膚や白目、尿が黄色く濃くなります。胆汁酸の蓄積により激しいかゆみ(掻痒感)を伴うことがあります。
むくみ・腹水タンパク質(アルブミン)合成能力の低下アルブミン不足や門脈圧亢進により水分バランスが崩れ、足のむくみやお腹に水が溜まる腹水が生じます。
集中力の低下・眠気(肝性脳症)解毒機能の低下アンモニアなどの有害物質が脳に達することで、見当識障害、性格の変化、昼間の強い眠気、手が不規則に震える羽ばたき振戦などが現れます。
手掌紅斑・クモ状血管腫ホルモン分解の滞り肝臓での女性ホルモンの分解がうまくいかなくなり、手のひらがまだらに赤くなったり(手掌紅斑)、胸や肩にクモの巣状の赤い血管腫が現れたりします。
出血しやすい・あざ血液凝固因子合成の低下血液を固めるタンパク質が不足するため、鼻血や歯茎からの出血が止まりにくくなったり、あざができやすくなったりします。
こむら返り(足のつり)アミノ酸代謝の異常肝硬変などの肝臓疾患に見られる特徴的なサインです。

※特に危険なサイン:吐血や黒い便(タール便)は、肝硬変により形成された食道・胃静脈瘤が破裂した可能性があり、命に関わる緊急事態です。すぐに救急車を呼ぶ必要があります。


3. 肝臓の健康を取り戻すための具体的な対策

肝機能異常の多くは、生活習慣の見直しによって改善が期待できます。自己判断せず、肝臓病専門医の指導のもとで「食事」「運動」「休養」の三本柱で取り組みましょう。

3-1. 食事療法:賢い「代謝」のサポート

脂肪肝は、食べ過ぎ、特に糖質や脂質の過剰摂取が主な原因です。

  • 糖質・脂質を賢くコントロール:甘いお菓子、ジュース、菓子パン、ラーメン、加工食品などを控えましょう。特に果糖は肝臓で直接脂肪に変わりやすいため要注意です。
  • 食物繊維を積極的に:野菜、きのこ類、海藻類は食物繊維が豊富で、血糖値の急上昇を抑え、肝臓の解毒を助けます。ベジファースト(最初に野菜から食べる)を実践しましょう。
  • 良質なタンパク質:肝細胞の修復・再生には、青魚(オメガ3脂肪酸が脂肪代謝を促進)、大豆製品、赤身肉などの良質なタンパク質が必要です。
  • 食べ方の工夫:早食いは満腹感を得る前にカロリーオーバーになりやすいため、一口30回噛むなど、ゆっくりよく噛んで食べることが大切です。
  • 飲酒の徹底的な見直し: アルコール性肝障害の場合は完全な禁酒が必須です。

3-2. 運動と休養:回復力を高める習慣

  • 有酸素運動:週に3回程度、1日30分程度のウォーキング(軽く汗ばむ程度の早歩き)など、無理なく続けられる有酸素運動で脂肪燃焼を促しましょう。
  • 筋力トレーニング:筋トレで筋肉量を増やし基礎代謝を上げることも、脂肪が燃えやすい体を作るのに有効です。
  • 十分な休養:十分な睡眠は肝臓の修復・再生に不可欠です。横になっている姿勢は、立ったり座ったりしている姿勢よりも肝臓にいく血流が1.5倍に増えるため、肝臓の修復・再生につながります。

4. 諦めない未来へ:標準治療の限界と再生医療という新たな希望

ウイルス性肝炎、アルコール性肝障害、そして代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)など、慢性的な炎症が続くと、肝臓はゴツゴツと硬くなる肝硬変へと進行します。

従来の治療の限界

肝硬変の治療は、原因疾患への治療(抗ウイルス薬、断酒など)と、腹水や肝性脳症といった合併症を和らげる対症療法が中心となります。

しかし、現在の標準治療では、一度硬くなってしまった肝臓の線維組織を根本的に柔らかくし、元の機能的な状態に戻すことは難しいのが現状です。末期では肝移植が唯一の根治治療とされますが、ドナー不足やご家族(ドナー)への大きな負担という課題があります。

幹細胞を用いた肝臓再生医療の可能性

さいとう内科クリニックでは、従来の治療法では改善が困難だった肝臓の線維化に直接アプローチする可能性を秘めた、幹細胞を用いた肝臓再生医療に取り組んでいます。

  • メカニズム: 患者様ご自身のお尻の脂肪組織から採取・培養した幹細胞を点滴で体内に戻します。幹細胞は炎症を抑制し、線維化の進行を抑制・改善し、損傷した肝細胞の修復や再生を促す働き(ホーミング効果、組織修復促進作用)が期待されています。
  • 期待できる効果: AST/ALTなどの肝臓の数値の改善、全身倦怠感の軽減、腹水やむくみ、肝性脳症のコントロール、それらによるQOL(生活の質)の向上が期待されています。当院で実際に肝臓再生医療を受けられた患者様の中でも、幹細胞点滴後、半年から1年かけて、これらの改善効果がみられています。
  • 最大のメリット: ご自身の細胞を使用するため、拒絶反応のリスクが極めて低いことが特徴であり、ドナー(ご家族)に身体的な負担をかけないというメリットもあります。

肝硬変の症状が顕著になる前の段階で再生医療を検討することが、残された肝機能の回復を促し、進行を遅らせる可能性を飛躍的に高めることができます。

肝臓はあなたの体の中で最も重要な「働き者」です。健康診断で異常を指摘された方や、体の不調が続く方は、「ただの疲れだろう」と放置せず、肝臓病の標準治療と再生医療の両方とも熟知している当院にご相談ください。肝臓病専門医によるオンラインでの事前相談「Curon(クロン)」も受けていただけます。

さいとう内科クリニック
院長
斉藤雅也 Masaya Saito
日本肝臓学会 肝臓病専門医 Hepatologist, The Japan Society of Hepatology
所在地
〒651-2412
兵庫県神戸市西区竜が岡1-15-3
(駐車場18台あり)
電話
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