- 2026年3月11日
【当院での症例解説】肝硬変による腹水・肝性脳症が改善した事例。再生医療がもたらすQOL(生活の質)の変化とは

神戸市西区のさいとう内科クリニック院長の斉藤雅也です。
「お腹に水が溜まって苦しい(腹水)」
「最近、ぼんやりすることが増えたり、手が震えたりする(肝性脳症)」
「体力が落ちて、外出もままならない」
肝硬変が進行し、このような症状が現れる「非代償性肝硬変」になると、患者様ご本人はもちろん、支えるご家族も「もう治らないのではないか」と深い絶望感に苛まれることが少なくありません。
しかし、現在の医療では「再生医療」という新たな治療法が登場し、これまで難しいとされてきた症状の改善と、QOL(生活の質)の向上が見られるケースが出てきています。
今回は、当院で実際に幹細胞点滴を受けられた重度肝硬変患者様の事例をもとに、再生医療が日々の生活にどのような変化をもたらすのかを詳しく深掘りしてお伝えいたします。
1.深刻な合併症「腹水」と「肝性脳症」、そして非代償性肝硬変の現実

肝臓が硬くなり、残った健康な細胞だけでは肝機能を維持できなくなった状態を「非代償性肝硬変」と呼びます。この段階になると、以下のような命に関わる深刻な合併症が現れます。
- 腹水(ふくすい): 肝臓で血液中の水分バランスを保つタンパク質(アルブミン)を作れなくなったり、肝臓が硬くなることで血流が悪くなったりする(門脈圧亢進)ことで、血管から水分が漏れ出してお腹に溜まります。お腹がパンパンに張り、息苦しさや吐き気、食欲不振を引き起こし、動くことすら億劫になります。
- 肝性脳症(かんせいのうしょう): 本来肝臓で解毒されるはずのアンモニアなどの毒素が脳に回り、脳の働きを妨げます。初期には集中力の低下や昼夜逆転、進行すると時間や場所がわからなくなり、腕を伸ばした時に手が鳥の羽ばたきのように不規則に震える「羽ばたき振戦」が現れることもあります。さらに進行すると昏睡状態に陥る危険な症状です。
肝硬変の重症度は「Child-Pugh(チャイルド・ピュー)分類」という指標で評価されます。今回ご紹介する患者様は「13点(グレードC:高度)」という、最も重症度が高く、余命も危ぶまれるような非常に厳しい状態でした。
これまでの標準治療(利尿剤やアンモニアを減らすお薬など)は、あくまでこれらの症状を一時的に和らげる対症療法が中心であり、大元である硬くなった肝臓そのものを元気にすることは非常に困難とされてきました。
2.【症例報告】非代償性肝硬変(Child-Pugh 13点)患者様の回復の歩み

当院では、2024年8月22日に、この重度の非代償性肝硬変(Child-Pugh 13点)の患者様に対し、ご自身のお尻の皮下脂肪を生検にて採取したのち培養した「幹細胞」を点滴投与する再生医療を実施しました。
治療前、患者様は極度の体力低下により、基本的にはベッド上でほぼ寝たきりとなっており、ご家族に対しても「もうあかん、あかん」と弱音をこぼすような状態でした。さらに、6月と7月にはそれぞれ1回ずつ肝性脳症を発症し、ご家族も「また脳症が出るのではないか」と常にビクビクしながら介護をされていました。
しかし、8月下旬の幹細胞点滴から約2週間が経過した9月に入ってから、ご家族も驚くような生活の質の変化が次々と現れ始めました。
日常生活(QOL)に現れた劇的な変化
- 「自らの意思で動く」行動力の回復:
ほぼ寝たきり生活だった状態から、ご自宅の2階へ階段で上がれるようになりました。さらに、駐車場から歩いて散髪に行き、ご自身で「こんな髪型にして」とオーダーできるようになったほか、選挙の投票にも歩いて行けるまでに体力が回復しました。
- 「自分の名前がすっと書ける」驚き:
以前は手の震えや認知機能の低下から字が書けず、契約書などはすべて奥様が代筆されていました。しかし治療後、ケアマネージャーとの契約書やインフルエンザの署名欄に、ご自身の力ですっと名前を書けるようになり、奥様を大変驚かせました。
- 日常動作の自立と認知機能の改善:
これまでは奥様に「お茶」と頼んでいたのが、ご自身で急須に緑茶を淹れて飲めるようになりました。また、納屋の解体準備のために、古い書類を自らシュレッダーにかけたり、紐でくくって玄関まで運んだりと、自分で考えて行動できるようになったのです。
- 恐怖の「肝性脳症」が消失:
以前は少し便秘気味になるだけですぐに脳症が現れていましたが、幹細胞点滴を実施した8月以降、脳症の発生は1回も認められていません。「脳症がいつ起こるのかビクビクしていた」というご家族の精神的な負担が大きく軽減されたことは、非常に大きな変化です。
- 前向きな精神状態への変化:
「もうあかん」というネガティブな言葉がなくなり、奥様も「気持ちが積極的(前向き)になった」と実感されるほど、精神的な活力に直結しました。
※この患者様において、6月の脂肪採取時および8月の幹細胞点滴中・点滴後にも、重篤な副作用(有害事象)は一切見られておりません。
3.なぜ幹細胞は肝臓を元気にするのか?(再生医療のメカニズム)

なぜ、これほどまでに重症な状態から、劇的なQOLの改善が見られたのでしょうか。
当院の治療では、患者様ご自身のお尻からごく少量の脂肪を生検にて採取し、そこから「幹細胞」を取り出して培養し、点滴で体内に戻します。
幹細胞は、体内で傷ついた組織や炎症のある場所(今回であれば肝臓)に自然と集まる性質(ホーミング効果)を持っています。そして、肝臓内で以下のような働きをすると期待されています。
- 抗炎症作用(火消し役): 肝臓で起きている悪い炎症(長引く火事のような状態)を鎮め、細胞へのダメージを軽減します。
- 線維化抑制・改善作用(ガードマン): 肝臓が硬くなる原因である線維組織の生成を抑え、これ以上硬くなるのを防ぐとともに、すでに硬くなった組織の修復を図ります。
- 組織修復促進(パラクリン作用): 幹細胞自体が傷ついた肝細胞の修復を助けたり、新しい血管の形成を促す様々な物質(成長因子など)を分泌し、肝臓が本来持っている回復力(自己治癒力)をサポートします。
これらの働きにより、肝臓の解毒機能が回復することでアンモニアなどの有害物質が減り「肝性脳症」が改善し、タンパク質の合成能力が底上げされることで「腹水」が軽減し、全身の倦怠感が取れて体力が回復していくと考えられます。
また、患者様ご自身の細胞を使用するため、拒絶反応やアレルギーのリスクが極めて低い(安全性が高い)という点も大きな特長です。
4. まとめ:諦める前に、標準治療と再生医療の「両軸」を

再生医療は魔法の治療ではありません。効果には個人差があり、通常は半年から1年ほどの時間をかけてゆっくりと変化が現れることが多いです。また、公的保険適用外の自由診療となります。
しかし、今回の事例が示すように、「もうこれ以上は良くならない」「肝移植しか道はない」と諦めかけていた状態からでも、再びご自身の足で歩き、字を書き、ご家族と穏やかな日常を取り戻せる可能性を秘めています。
「腹水で苦しんでいる」
「肝性脳症に怯えている」
そんなお悩みを持つ患者様やご家族は、決して一人で抱え込まず、まずは肝臓病専門医にご相談ください。
当院は、保険診療による標準治療をしっかりと行いつつ、並行して肝臓再生医療を行う「両軸」のスタンスをとっています。全国どこからでもご相談いただけるオンライン事前相談(Curon)も受け付けておりますので、あなたの未来への希望を、私たちと共に育んでいきましょう。
- 院長
- 斉藤雅也 Masaya Saito
日本肝臓学会 肝臓病専門医 Hepatologist, The Japan Society of Hepatology - 所在地
- 〒651-2412
兵庫県神戸市西区竜が岡1-15-3
(駐車場18台あり) - 電話
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- 電話:078-967-0019
- 携帯電話:080-7097-5109
- アクセス
- 当院は、神戸市西区と明石市の境界付近に位置しており、明石市からも徒歩圏内です。実際に、明石市方面からも多くの患者様(肝臓病・一般内科)にご来院いただいております。駐車場も完備しておりますので、お車での通院も便利です。
