- 2025年4月9日
【専門医が解説】あなたの脂肪肝はどのレベル? エコー検査でわかる重症度の見分け方

「健康診断で脂肪肝と言われたけれど、特に症状もないし…」
「肝臓の数値が少し高いみたいだけど、まあ大丈夫かな?」
そんな風に考えている方、いらっしゃいませんか? 肝臓は「沈黙の臓器」。症状が出にくいだけに、ご自身の肝臓が今どのような状態にあるのか、正確に知っておくことがとても大切です。
脂肪肝と一口に言っても、実はその「程度」には違いがあります。そして、その程度を知るために非常に役立つのが「超音波(エコー)検査」なのです。
さいとう内科クリニックでは、肝臓の状態を評価する上で、エコー検査を重視しています。なぜなら、エコー検査は患者さんの体に負担をかけることなく、肝臓に関する多くの情報を得られる優れた検査方法だからです。
今回は、エコー検査で脂肪肝がどのように見えるのか、そして「軽度」「中等度」「高度」といった重症度がどのように判断されるのか、その重要性について専門医の視点から詳しく解説します。
そもそも脂肪肝って? なぜエコーで”見える”の?

脂肪肝とは、その名の通り、肝臓の細胞の中に中性脂肪が過剰にたまってしまった状態を指します。原因には、飲酒だけでなく、食べ過ぎ、運動不足、肥満、糖尿病なども含まれます。では、なぜ肝臓にたまった脂肪がエコーで「見える」のでしょうか?
エコー検査は、超音波(人間の耳には聞こえない高い周波数の音)を体の表面から当て、臓器から跳ね返ってくる反射波(エコー)を画像として映し出す検査です。魚群探知機と同じような原理ですね。
肝臓に脂肪がたくさんたまると、超音波が通常よりも強く反射されるようになります。その結果、エコー画像上では、健康な肝臓よりも「白っぽく(専門的には高輝度(こうきど)に)」見えるようになるのです。この「白さ」の程度や見え方の違いによって、脂肪肝の重症度を評価します。ちなみにエコー検査は、痛みもなく、放射線被曝の心配もない、非常に安全な検査です。
エコーで見る脂肪肝の重症度:「軽度」「中等度」「高度」の見分け方

エコー検査では、主に以下のポイントから脂肪肝の重症度を「軽度」「中等度」「高度」の3段階で評価します。
- 肝臓の白さ(肝腎コントラスト): 肝臓と隣にある腎臓の見え方を比較します。脂肪が多いほど肝臓は白っぽく見えます。
- 肝臓内の血管の見え方: 肝臓の中を走る血管(門脈など)の壁が、脂肪の蓄積によって見えにくくなります。
- 肝臓の奥の見え方(深部減衰): 脂肪が多いと超音波が肝臓の奥まで届きにくくなり、深い部分が不明瞭になります。
- 横隔膜の見え方: 肝臓の上にある横隔膜の輪郭が見えにくくなります。
これらの所見を総合的に判断して、以下のように分類します。
- 【軽度脂肪肝】
- 肝臓全体が、腎臓と比べてやや白っぽく見えます。
- 肝臓内の血管の壁は、まだ比較的はっきりと見えます。
- 肝臓の奥の方や横隔膜も、問題なく観察できます。
- 【中等度脂肪肝】
- 肝臓の白さがさらに増し、腎臓との色の違いがより明確になります。
- 肝臓内の血管の壁が見えにくくなってきます。
- 肝臓の奥の方が少しかすんで見える(深部減衰)ことがあります。
- 【高度脂肪肝】
- 肝臓全体が非常に白く、まぶしいように見えます。
- 肝臓内の血管の壁はほとんど見えなくなります。
- 肝臓の奥の方や横隔膜がかなり不明瞭になります。
なぜ「重症度」を知ることが大切なの?

「脂肪肝の程度がわかったところで、何が違うの?」と思われるかもしれません。しかし、エコーで評価される重症度を知ることは、今後の健康管理において非常に重要です。
- 進行リスクの指標: 脂肪肝は、放置すると「非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)」や「アルコール性肝炎」といった炎症を伴う状態に進行し、さらには肝臓が硬くなる「肝硬変」、そして「肝臓がん」へと進展するリスクがあります。エコーでの重症度が高い(特に中等度〜高度)ほど、こうした進行リスクが高い可能性を示唆します。
- 線維化(肝臓の硬さ)の可能性: エコーで脂肪の程度が強い場合や、肝臓の辺縁が丸みを帯びていたり、表面が凸凹して見えたりする場合は、肝臓の線維化(硬くなること)が進んでいる可能性も考えられます。(ただし、エコーだけで線維化を正確に診断することは難しく、他の検査が必要になることがあります。)
- 対策の必要性が変わる: 軽度の脂肪肝であれば、まずは生活習慣の改善をしっかり行うことが中心になりますが、中等度以上の場合や進行が疑われる場合は、より厳格な管理や、血液検査での詳細な評価(線維化マーカーなど)、肝臓の硬さを測る特殊な検査(Shear waveエラストグラフィなど)、場合によっては治療が必要になることもあります。
つまり、エコーでご自身の脂肪肝の「レベル」を把握することは、適切な対策を立て、将来の深刻な病気を予防するための第一歩となるのです。
当クリニックが「エコー検査」に力を入れる理由

当クリニックでは、肝臓の状態を把握するために、超音波(エコー)検査を非常に重要な検査と位置づけ、力を入れています。その理由は以下の通りです。
- 患者さんへの負担が少ない: 検査中の痛みはなく、リラックスして受けていただけます。検査時間も比較的短時間です。
- 安全性が高い: 放射線を使用しないため、被曝の心配がなく、妊娠中の方や繰り返し検査が必要な方でも安心して受けられます。
- リアルタイムで観察できる: モニター画面で肝臓の内部をリアルタイムに観察しながら検査を進めるため、詳細な評価が可能です。CTではスライス感覚が少しあくので、評価ができない部分が生じてしまいますが、エコーでは連続して途切れなく観察できます。
- 脂肪肝以外の病変発見も: 脂肪の程度だけでなく、肝臓の形や大きさの異常、肝臓腫瘍(がんなど)、胆石、胆のうポリープ、膵臓、脈管の異常など、お腹の中の様々な病気を発見するきっかけにもなります。
- 専門医による質の高い診断: 当クリニックでは、消化器病専門医、肝臓専門医、そして超音波専門医でもある院長が、細心の注意を払いながら丁寧にエコー検査を行っています。装置の性能だけでなく、検査を行う医師の技術と経験が、診断の質を大きく左右するからです。私たちは、微細な変化も見逃さないよう、常に質の高い検査を心がけています。
エコー検査の限界と、その先のステップ
エコー検査は脂肪肝の程度や肝臓の形態を見るのに非常に優れていますが、万能ではありません。例えば、脂肪肝に炎症が伴っているか(NASHかどうか)、肝臓の線維化(硬さ)がどの程度進んでいるかを正確に診断するには限界があります。
そのため、エコー検査で中等度以上の脂肪肝が見られたり、肝硬変への進行が疑われる所見があったりする場合には、次のようなステップが必要になることがあります。
- 血液検査: 肝機能(AST, ALT, γ-GTPなど)の再評価に加え、血小板数や線維化の程度を推測するマーカー(FIB-4 indexなど)を調べます。
- 肝臓の硬さ測定(エラストグラフィ): 当院ではShear waveといった、超音波の技術を応用して肝臓の硬さを数値で評価しています。肝生検を行わずに線維化の程度を推定できます。
- 肝生検: 必要に応じて、肝臓に細い針を刺して組織の一部を採取し、顕微鏡で詳しく調べる検査です。炎症や線維化の程度を最も正確に診断できます。
エコー検査は、これらのより詳しい検査が必要かどうかを判断するための、重要な入り口となる検査なのです。
エコーで肝臓の状態を知り、未来の健康へ

脂肪肝は、もはや「太っている人だけ」「お酒を飲む人だけ」の病気ではありません。そして、「症状がないから大丈夫」と安心できる病気でもありません。
超音波(エコー)検査は、痛みなく安全に、あなたの肝臓にどれくらい脂肪がたまっているのか、その「重症度」を評価できる非常に有用なツールです。軽度、中等度、高度といった進行度を知ることは、ご自身の健康状態を正しく理解し、適切な対策を始めるための大切なステップです。
当クリニックでは、消化器病専門医、肝臓専門医、そして超音波専門医でもある院長が、責任を持ってエコー検査を行い、あなたの肝臓の状態を丁寧に評価いたします。健康診断で脂肪肝を指摘された方、肝臓の数値が気になる方、ご自身の肝臓の状態を一度しっかり調べてみたい方は、ぜひお気軽にご相談ください。
そして、もし肝臓の状態が進行してしまっている場合でも、諦めないでください。当院では、進行した肝疾患に対する新しい治療選択肢として肝臓再生医療にも取り組んでおります。まずは、エコー検査でご自身の肝臓の「今」を知ることから始めましょう。それが、未来の健康への第一歩となります。