• 2025年12月6日

【肝臓病専門医が警告】「二日酔い対策」の落とし穴と“沈黙の臓器”肝臓を守る真のケア

年末年始やイベントシーズンは、飲酒量が増えやすく、沈黙の臓器と呼ばれる肝臓にとって大きな負担がかかる時期です。アルコールの多飲は、脂肪肝や肝硬変といった深刻な疾患につながる可能性があるため、肝臓の「代謝能力」を守る正しいケアの知識が不可欠です。

今回は、専門医の解説に基づき、誤った二日酔い対策の知識を正し、日々の飲酒管理と肝臓ケアのポイント、そして肝硬変に対する「再生医療」という新たな希望についてお伝えします。


1.過度な飲酒が肝臓に与える重い負担

肝臓は、体内に入ったアルコールを主に分解し、体に無害なものへ変える解毒作用という重要な役割を担っています。しかし、お酒を飲むと肝臓がフル稼働しますが、この分解過程で肝細胞にダメージを与える成分(アセトアルデヒドなど)が生成されてしまいます。

  • 処理能力の限界:アルコール処理に用いられる酵素の量には限りがあるため、過剰に飲酒すると処理能力を超え、アルコールが体内に留まり、肝臓がさらに負担を抱え込みやすくなります。
  • 適量の目安:肝臓が1日に無理なく代謝できるアルコール量には限度があり、目安はビール中瓶1本、または日本酒1合程度とされています。
  • 「休肝日」の落とし穴:休肝日を設けたとしても、それだけで大量の飲酒が帳消しになるわけではありません。肝臓の健康を守るためには、日々の飲酒量の総量を意識することが大切です。
  • 深刻な病態:長期間にわたる過度な飲酒は、最終的にアルコール性肝硬変など、命に関わる深刻な病態を引き起こします。

2.「二日酔い対策」の間違った知識と正しい対処法

一般的に行われている二日酔い対策の中には、根本的な解決に至らないものがあります。

間違いだった対策と原因

二日酔いの原因は、主にアセトアルデヒドや脱水です。二日酔い対策として「水を大量に飲む」や「カフェインでアルコールを抜く」といった説がありますが、これらは根本改善にはなりません。

効果的な対処法と減酒治療

  • 効果的な対処法:二日酔いの回復を促すためには、水分補給と軽食で栄養を補給することが効果的です。
  • 予防のための食習慣:飲酒前に、アセトアルデヒド分解酵素を活性化するブロッコリースプラウトを摂取することも推奨されます。ただし、摂取したからといって大量に飲酒して良いわけではないため、注意が必要です。
  • 減酒治療:完全に禁酒を目指すのではなく、安全な量まで飲酒量を減らすことを目標とする「アルコール減酒治療」も注目されています。禁酒が難しいと感じる方は、専門家や医師に相談してみることを検討しましょう。

3.「沈黙の臓器」のSOSを見逃さないためのポイント

肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、病気がかなり進行するまで自覚症状が現れにくいのが特徴です。倦怠感や食欲不振といった漠然とした不調が、実は肝臓からのSOSサインである可能性があります。肝硬変の進行期(非代償性肝硬変)では、黄疸、腹水、肝性脳症といった命に関わる症状が出現します。

肝臓の健康を守るためには、日頃から以下の点に注意し、早期発見・早期対応を心がけることが極めて重要です。

血液データによるチェック

定期的な健康診断での血液検査は、肝臓の状態を知るための重要な手がかりです。

  • AST (GOT) / ALT (GPT):肝細胞の中に多く含まれる酵素で、数値が高いほど肝細胞がダメージを受けている(壊れている)ことを示します。
  • γ-GTP (ガンマGTP):アルコール性肝障害の指標として知られますが、お酒を飲まない人でも脂肪肝や胆道系の異常で上昇することがあります。
  • MCV(平均赤血球容積):日頃からお酒を多く飲んでいる人は、飲酒量を過少申告することがあるため、AST/ALTやγ-GTPと共にMCVの上昇などの血液データをしっかりと確認することが大切です。

最新の画像診断

肝臓の状態を正確に把握するために、画像診断も重要です。

  • 腹部超音波(エコー)検査:脂肪肝の有無、重症度、肝臓の硬さ(線維化の兆候)を、体に負担をかけずに評価できます。当院の院長は日本超音波医学会の超音波専門医でもあり、質の高い検査を提供しています。
  • 肝硬度測定:肝硬度測定(Shear Wave エラストグラフィなど)は、エコーを用いて肝臓の硬さ(線維化の程度)を測定できる検査であり、肝硬変への進行リスクをより正確に評価するために活用されます。

4.肝臓トラブルを減らすために実践すべきこと

肝臓の代謝能力を守るために、以下の4つのポイントを日常で実践しましょう。これらの実践は、肝臓トラブルを大幅に減らすことができます。

  • 飲む量を常に意識する。
  • 休肝日だけに頼らず、飲酒の総量を調整する。
  • 二日酔い時は、水分と軽食で回復を促す。
  • 血液検査や腹部超音波検査、肝硬度測定により、肝臓の状態を確認する。

5.【新たな希望】「もう治らない」と諦めないための再生医療

肝硬変治療の限界

肝硬変は、慢性的な炎症の結果、肝臓が線維化して硬くなり、その機能が失われた状態です。従来の肝硬変治療は、症状を緩和し病気の進行を遅らせることが目的であり、一度硬くなった肝臓を元に戻すことは困難とされてきました。

重度の肝硬変(非代償性肝硬変)では、肝機能が著しく低下し、腹水や肝性脳症、黄疸といった命に関わる深刻な症状が現れます。

幹細胞を用いた肝臓再生医療という選択肢

近年、幹細胞を用いた肝臓再生医療が、従来の治療では限界のあった肝硬変に対する新たな治療の選択肢として注目を集めています。

治療のメカニズムと安全性

当院で行う再生医療は、患者さんご自身のお尻の皮下脂肪組織から採取・培養した幹細胞を投与する治療法です。

  • 拒絶反応がない:ご自身の細胞を使用するため、拒絶反応の心配がなく、安全性が担保されています。
  • 多角的な効果:投与された幹細胞は、損傷した肝臓に集まり(ホーミング効果)、以下の働きにより肝臓の回復を助ける可能性が期待されます。
    • 抗炎症作用:肝臓の慢性的な炎症を抑える。
    • 線維化抑制・改善作用:肝臓が硬くなる原因である線維組織の生成を抑え、進行の抑制・改善を図る。
    • 組織修復促進:傷ついた肝細胞の修復を助ける物質を分泌する。

治療の対象

この治療は、肝硬変が進行し、腹水や肝性脳症、黄疸といった症状があっても治療の対象となります。ただし、治癒していないがんがある場合は不可です。

肝硬変の初期から進行期にわたり再生医療を検討することで、血液データ上の肝臓の数値の改善や肝臓の線維化の改善、腹水の減少、倦怠感の軽減、肝性脳症や黄疸の改善といったQOL(生活の質)の向上が期待されます。当院では、幹細胞治療を開始して半年から1年くらいかけて、肝臓の数値の改善や腹水の減少、倦怠感の軽減、肝性脳症の改善がみられた症例を報告しました。

諦めないで、肝臓病専門医にご相談ください

肝臓は、病気が進行すると治癒が難しくなる臓器です。もし「少し飲みすぎかも」と感じたり、健康診断で異常を指摘されたりしたら、手遅れになる前に、ぜひ肝臓病専門医に相談し、健康な肝臓をキープしていきましょう。

当院では、Curon(クロン)を利用したオンライン事前相談も受け付けており、遠方にお住まいの方も安心してご相談いただけます。

さいとう内科クリニック
院長
斉藤雅也 Masaya Saito
日本肝臓学会 肝臓病専門医 Hepatologist, The Japan Society of Hepatology
所在地
〒651-2412
兵庫県神戸市西区竜が岡1-15-3
(駐車場18台あり)
電話
  • 電話:078-967-0019
  • 携帯電話:080-7097-5109