• 2026年5月11日

肝臓再生医療とは何か——「沈黙の臓器」を細胞レベルでリノベーションする最新治療

こんにちは。

神戸市西区のさいとう内科クリニック院長の斉藤雅也です。

「再生医療」という言葉を耳にする機会が増えましたが、肝臓に対する再生医療とは、単に症状を抑えるだけの治療ではありません。それは、傷ついた肝臓組織を自分自身の細胞を使って修復し、機能そのものを「根本からリノベーション(大規模修繕)」する最先端のアプローチです。

慢性肝炎、肝硬変、そして近年急増しているMASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)など、肝臓は沈黙を守りながらダメージを蓄積させます。本記事では、肝臓病専門医の視点から、再生医療の基本概念と現在の治療の到達点についてお知らせいたします。

肝臓の自己再生能力とその「限界点」

肝臓はもともと、人体で最も高い自己再生能力を持つ臓器です。外科手術で肝臓の70%を切除しても数か月で元の大きさに戻るのは、肝細胞が活発に分裂し、それを肝星細胞などのサポート役が支えているからです。

しかし、この再生能力にも「限界点」があります。慢性的な炎症が続くと、肝臓の中に「線維(コラーゲン)」という硬い組織が蓄積します。これが「肝臓の線維化」です。肝硬変に至ると、肝臓は岩のように硬くなり、自力で元の柔らかい組織に戻ることは困難になります。従来の薬物療法は、この進行を「遅らせる」ことしかできませんでしたが、再生医療はこの硬くなった肝臓組織に直接働きかけ、「時計の針を戻す」ことを目指す新しい治療法なのです。

【肝臓病専門医の視点】

肝臓の線維化(硬さ)を正確に把握することは、治療のタイミングを逃さないために極めて重要です。私は、肝硬度測定を行いつつ、血液中の「NX-PIVKA」というマーカーも、肝機能の低下や線維化を予測する負担のない新しいモデルになり得ることを臨床研究で提唱しています。こうした客観的なデータも踏まえつつ、再生医療の適応を精密に評価します。

(出典:Hepat Mon 2015; 15(2): e22978

当院が提供する「脂肪由来幹細胞治療」のメカニズム

現在、実用化されている肝臓再生医療の中で、特に注目されているのが「間葉系幹細胞(MSC)治療」です。当院では、患者様ご自身のお尻の脂肪組織から採取した幹細胞を使用しています。

1.抗炎症作用(火事の鎮火)

投与された幹細胞は、肝臓の炎症部位に集まり、炎症を抑える物質を放出します。いわば、肝臓内で起きている「火事」を鎮火させ、さらなる破壊を止める役割を担います。

2.線維化の抑制と溶解(硬い組織をほぐす)

幹細胞は、硬くなった原因である「線維(コラーゲン)」を分解する酵素の分泌を促します。これにより、硬くなった肝臓をこれ以上硬くならないようにし、さらに、柔らかくすることで、肝血流を改善させる効果が期待されています。

3.肝細胞の活性化(工場の再稼働)

残っている健康な肝細胞の増殖を助ける成長因子を放出し、肝臓全体の代謝・解毒機能をボトムアップさせます。

再生医療を選択する上で不可欠な「安全性」の基準

再生医療は「自由診療」だからこそ、その品質と安全性を厳格に見極める必要があります。当院では以下の基準を徹底しています。

  • 「XF培地」による培養: 従来の培養法で使われていた動物性血清や自己血清を使用せず、不純物を排除した完全合成培地(XF培地)を採用。これにより、点滴時の血管塞栓リスクをゼロベースにまで抑えています。
  • 専門医による一貫した管理: 当院は肝臓病専門医が直接診断・投与を行う、国内でも稀有な施設です。単に幹細胞を投与するだけでなく、治療前後の肝機能評価や合併症管理までをトータルで行います。
  • 法的手続きの遵守: 「再生医療等安全性確保法」に基づき、厚生労働省への計画提出・受理を完了し、厳格なプロセスで運用されています。

よくあるご質問(Q&A)

Q:自分の脂肪から採った細胞で、本当に「肝臓」が治るのですか?

A はい。私たちが使用する「間葉系幹細胞」には、周囲の細胞に働きかけて修復を促す「指揮官」のような役割があります。投与された細胞が肝臓に到達すると、炎症を抑え、硬くなった線維がこれ以上拡がらないようにしつつ、線維を溶かすスイッチを入れます。これにより、肝臓全体が本来の機能を取り戻しやすい環境へと改善されるのです。

Q:治療後、どのくらいの期間で効果を実感できますか?

A 再生医療を受ける前の肝機能やご年齢にもよりますが、一般的には点滴から2〜3ヶ月後くらいから、血液検査上の数値(ALTやアルブミンなど)に変化が現れ始め、半年から1年をかけて「体が軽くなった」「疲れにくくなった」といったQOL(生活の質)の向上を実感される方が多いのが特徴です。

Q:肝硬変の末期(非代償性)でも再生医療は受けられますか?

A 腹水や黄疸がある非代償性の段階でも、治療の対象となり得ます。むしろ、従来の治療で打つ手がなくなった方にこそ、検討していただきたい選択肢です。ただし、肝臓がんが活動期にある場合は、まずはがんの治療が優先されます。

Q:以前、別のクリニックで「自己血清」を使うと言われたのですが、何が違うのですか?

A 非常に重要な点です。自己血清は体調に左右されやすく、品質を一定に保つのが難しい課題がありました。当院では最新の「XF培地(無血清培地)」を採用。不純物を排除して育てることで、細胞の活性を高く保ち、点滴時のリスクを極限まで抑えています。

肝臓病専門医として伝えたいこと

「肝硬変と言われたら、あとは悪くなるのを待つだけ」

そんな時代は終わりつつあります。ご自身の細胞が持つ力を最大限に引き出し、硬くなった肝臓をリノベーションする。私たちは、最新のエビデンスに基づき、患者様一人ひとりの「一日一生」を支える治療を提案し続けます。

■肝臓再生医療について詳しく知りたい方へ

当院では、現在の肝臓の検査データに基づいたオンライン事前相談を実施しています。ご遠方の方も、まずはオンラインで第一歩を踏み出してみませんか。

この記事の監修・執筆者

さいとう内科クリニック
院長:斉藤 雅也 Masaya Saito

  • 日本内科学会認定医
  • 日本肝臓学会専門医
  • 日本消化器病学会専門医
  • 日本超音波医学会専門医
  • 日本消化器内視鏡学会専門医
院長 斉藤雅也 Masaya Saito

神戸大学医学部附属病院等の最前線で長年消化器・肝臓内科の臨床と研究に従事。医学博士。 標準治療では回復が困難な進行した肝炎や肝硬変に対し、新たな選択肢としての「肝臓再生医療」にいち早く取り組む。また、肝硬変患者さまの中で合併症(潜在性肝性脳症)を有する割合を明らかにし、カルニチンによる潜在性肝性脳症の治療効果を世界で初めて報告するなど、国際的な英文医学誌への論文掲載実績も多数(代表論文:Hepatol Res 2016; 46(2): 215-224)。科学的根拠に基づいた高度な専門知識と精緻な診断で、患者様の肝臓を守るサポートを行っています。
≫ 詳しい経歴や全研究実績はこちら

さいとう内科クリニック
院長
斉藤雅也 Masaya Saito
日本肝臓学会 肝臓病専門医 Hepatologist, The Japan Society of Hepatology
所在地
〒651-2412
兵庫県神戸市西区竜が岡1-15-3
(駐車場18台あり)
電話
  • 電話:078-967-0019
  • 携帯電話:080-7097-5109
アクセス
当院は、神戸市西区と明石市の境界付近に位置しており、明石市からも徒歩圏内です。実際に、明石市方面からも多くの患者様(肝臓病・一般内科)にご来院いただいております。駐車場も完備しておりますので、お車での通院も便利です。