• 2026年10月14日

【肝臓病専門医が解説】肝硬変と薬 ― 「効きすぎ」や「副作用」を防ぐための正しい知識

こんにちは。

神戸市西区のさいとう内科クリニック院長の斉藤雅也です。

2026年10月15日放送予定のNHK『あしたが変わるトリセツショー』にて、「薬とのつきあい方」がテーマとして取り上げられます。薬との正しい向き合い方は誰にとっても大切なテーマですが、肝硬変の患者様にとっては、その重みがまったく異なります。

肝臓は、体に入った薬の多くを分解・処理する中心的な臓器です。肝硬変になるとこの働きが低下しているため、一般的な量の薬でも「効きすぎたり」「思わぬ副作用が出たり」することがあります。実際の診療でも、市販の痛み止めや睡眠薬を飲んだことがきっかけで、腹水が悪化したり肝性脳症を起こしたりして来院される方は決して少なくありません。

一方で、肝硬変の患者様には、利尿薬やアンモニアを下げる薬など、合併症をコントロールするために「欠かせない薬」も存在します。つまりお薬は、使い方次第で肝硬変の患者様を守る強い味方にも、負担にもなる「両刃の剣」なのです。

今回は、肝臓病専門医の視点から、肝硬変で薬の効き方が変わるメカニズムや、種類別の具体的な注意点、そして絶対に見逃してはいけない受診のサインまで詳しく解説いたします。

■ 1. 肝硬変で薬の効き方が変わる仕組み

薬が体に入ってから出ていくまでの流れは、大きく「吸収 → 分布 → 代謝(分解)→ 排泄」の4段階に分けられます。肝硬変になると、このすべての段階に影響が及びます。

変化の要因体の中で何が起きるか薬への影響
肝細胞の減少薬を分解する酵素の働きが落ちる薬が体に長く残り、効きすぎやすくなる
血流の変化(シャント)腸から吸収された薬の一部が、肝臓を通らずに全身へ回る肝臓で分解される分が減り、血中濃度が跳ね上がる
アルブミンの低下血液中で薬と結びつくタンパク質が減るむき出しの「作用する形」の薬が増え、効きが強まる
腹水・むくみ体の水分バランスが崩れ、薬の広がり方が変わる薬の効きが弱まったり、効果が予測しにくくなる
腎機能の低下肝硬変が進むと、腎臓の血流も落ちやすくなる腎臓から尿として出ていくはずの薬が体にたまりやすくなる

とくに見落とされやすいのが「腎臓」への影響です。

肝硬変の方は筋肉量が減っていることが多く、一般的な腎機能の指標であるクレアチニン値が低めに出やすいため、一見すると「腎臓は問題ない」と判断されてしまうことがあります。しかし実際には腎機能が落ちていることもあり、薬の量を決めるうえで大変注意が必要です。

さらに、肝硬変の方の脳はもともと薬の影響を受けやすい状態にあります。睡眠薬などの「脳に作用する薬」で強く症状が出やすいのはこのためです。

■ 2. 重症度と薬の量 ― 「Child-Pugh(チャイルド・ピュー)分類」が目安に

腎臓の病気であれば、「この数値なら薬はこの量」と計算する方法が確立しています。ところが肝臓には、そうした一つに決まる便利な指標がありません。

そこで、医師が薬の投与量を判断する目安のひとつにしているのが、肝硬変の重症度を表す「Child-Pugh分類」です。

これは、血液検査(総ビリルビン、アルブミン、プロトロンビン時間)と、腹水・肝性脳症の有無・程度を点数化し、重症度をA・B・Cの3段階に分ける世界的な基準です。

【Child-Pugh分類の評価項目】

評価項目1点2点3点
総ビリルビン(mg/dL)2.0 未満2.0〜3.03.0 超
血清アルブミン(g/dL)3.5 超2.8〜3.52.8 未満
プロトロンビン時間活性 (PT%) / (PT-INR)70% 以上 (1.7 未満)40〜70% (1.7〜2.3)40% 未満 (2.3 超)
腹水なし軽度(利尿薬でコントロール可能)中等度以上(コントロール困難)
肝性脳症なし軽度(Grade I〜II:昼夜逆転など)重度(Grade III〜IV:昏睡など)

【合計点数と薬の考え方】

グレードA(5〜6点):代償期

肝臓の働きは比較的保たれています。多くの薬は通常通り使えますが、肝臓に負担のある薬には注意が必要です。

グレードB(7〜9点):移行期〜非代償期

肝機能の低下が目立ち始めます。薬の量を減らす、間隔をあける、別の薬に替えるなどの細やかな調整が必要になります。

グレードC(10〜15点):非代償期

肝臓の働きが大きく落ちており、使える薬が厳しく制限されます。極めて慎重な判断が必要です。

医療用の薬の添付文書には、「Child-Pugh分類がCの患者には使用を避ける」といった記載があるものも多く、医師や薬剤師はこれを参考に投与量を決めています。

ご自身のグレードを知らない方は、一度主治医に尋ねてみてください。他の医療機関でお薬を処方される際、「肝硬変があり、Child-Pugh Bと言われています」と具体的に伝えられると、より安全な処方につながります。

■ 3. 薬の種類別に見る注意点

ここからは、日常的によく使われる薬に関する具体的な注意点を解説します。

① 睡眠薬・抗不安薬 ―「眠れない」は肝性脳症のサインかも?

ベンゾジアゼピン系などの睡眠薬は、分解が遅れて効きすぎやすく、肝性脳症を引き起こす代表的なきっかけとなります。翌日まで眠気が残る、ふらついて転ぶ、もの忘れがひどくなるといった形で現れます。

また、「夜眠れず、昼間に眠い(昼夜逆転)」こと自体が、肝性脳症の初期症状である場合があります。自己判断で睡眠薬を足すとさらに悪化する恐れがあるため、眠れないときはまず主治医にご相談ください。

② 痛み止め(NSAIDs)― 腹水と出血に要注意

ロキソプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、市販の痛み止めにも広く含まれていますが、肝硬変の方では原則として避けたいお薬です。

  • 腎臓の血流を落とす: 急な腎機能の悪化を招くことがあります。
  • 利尿薬が効きにくくなる: 腹水が増える原因になります。
  • 出血しやすくなる: 胃粘膜を傷つけるうえ、肝硬変では血小板が少なく静脈瘤を抱えていることもあるため、消化管出血の危険が高まります。

③ アセトアミノフェン ― 比較的安全だが「量」が大切

解熱鎮痛薬のなかでは、アセトアミノフェンが比較的使いやすいとされています。ただし、大量に飲むと肝障害を引き起こします。肝硬変の方では一般の方より少ない「1日2g程度まで」を目安とすることが推奨されています。市販の風邪薬などにも含まれているため、無意識に重複して飲まないよう注意が必要です。

④ 利尿薬 ― 欠かせない薬だからこそ定期チェックを

腹水やむくみをとる利尿薬は大切な薬ですが、効きすぎると脱水や腎機能の悪化、ナトリウム・カリウムなどの電解質異常を起こし、それが肝性脳症の引き金になることがあります。自己判断で増やしたり中止したりせず、定期的な血液検査で状態を確認しながら調整します。

⑤ 胃薬(PPI)― 漫然と飲み続けていませんか?

胃酸を抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)は、静脈瘤の治療後などに必要ですが、長期間飲み続けると「特発性細菌性腹膜炎」というお腹の感染症や、肝性脳症のリスクが高まることが報告されています。「なんとなくずっと飲んでいる」という方は、一度主治医と見直しを検討してみてください。

⑥ 糖尿病の薬 ― 低血糖とHbA1cの落とし穴

肝臓は糖を蓄え、必要な時に作り出す臓器です。肝硬変ではこの働きが落ちるため、糖尿病の薬で低血糖を起こしやすくなります。また、赤血球の寿命が短くなる影響で、血糖の指標であるHbA1cが実際よりも「低く(良く)」出ることがあり、コントロールが良好だと誤解されやすい点にも注意が必要です。

⑦ 血液をサラサラにする薬 ― 出血リスクとのバランス

心臓や脳の病気で抗血小板薬や抗凝固薬を飲んでいる場合、肝硬変による血小板減少と相まって出血リスクが跳ね上がります。循環器・脳神経の主治医と、肝臓の主治医が緊密に連携して方針を決めることが重要です。

⑧ 便秘の薬 ― 肝硬変では立派な「治療薬」

肝硬変の方にとって便秘は大敵です。腸内に便がとどまるとアンモニアが大量に発生し、肝性脳症の原因となります。そのため、便秘薬は単なるお通じ改善ではなく「肝性脳症の予防薬」として処方されます。「最近お通じが良すぎるから」と自己判断でやめず、便の回数や硬さを主治医に伝えて調整してもらいましょう。

⑨ サプリメント・健康食品・漢方薬

「肝臓に良い」とうたわれる健康食品による薬剤性肝障害は、数多く報告されています。肝機能が低下している状態では、軽い肝障害でも命に関わる重篤な事態を招きかねません。「天然だから安全」とは限りませんので、新しいものを試す前に必ず主治医に相談してください。

■ 4. その症状は薬のせい?肝硬変の悪化? ― 見逃したくないサイン

肝硬変の方では、薬の副作用と肝硬変そのものの悪化が、非常によく似た症状として現れます。どちらが原因であっても、早めに気づいて対処することが大切です。

【次の受診時に必ず伝えたい変化】

気づいた変化考えられること
日中の眠気、夜眠れない、もの忘れ、計算が苦手になった肝性脳症の初期、または睡眠薬などの影響
便秘が続く肝性脳症の引き金になる危険なサイン
足のむくみやお腹の張りが増えた、体重が急激に増えた腹水の増加、痛み止めや利尿薬の影響
足がつる、だるさが強い利尿薬による電解質(ミネラル)の異常
冷や汗、手のふるえ、動悸(とくに空腹時)糖尿病の薬による低血糖
皮膚や白目の黄ばみ、尿の色が濃い(茶色)肝機能の低下、薬やサプリによる肝障害

【すぐに医療機関を受診すべき緊急症状】

  • 血を吐いた、黒いタール状の便が出た(胃・食道静脈瘤の破裂などの恐れ)
  • 呼びかけへの反応が鈍い、話がかみ合わない、意識がもうろうとしている
  • 発熱と激しいお腹の痛みがある(腹水の感染の恐れ)
  • 尿の量が急激に減った

これらは命に関わる危険な状態です。夜間や休日であってもためらわずに救急外来を受診するか、救急車を呼んでください。

■ 5. 当院での取り組み ― お薬の「総点検」と見極め

肝硬変の方は、糖尿病や高血圧、整形外科的疾患などで複数の医療機関にかかっていることが多く、気づかないうちに薬が増える「多剤服用(ポリファーマシー)」に陥りがちです。当院では、肝臓病専門医として以下のような診療を行っております。

  • お薬の総点検: お薬手帳はもちろん、市販薬やサプリメントも含めてすべて確認し、肝臓の現状に合っているか見直します。
  • 正確な重症度評価: 血液検査や腹部超音波検査、超音波エラストグラフィー検査(肝臓の硬さ測定)を用いて現在のステージを正確に評価し、薬の量を決める土台とします。
  • 他の医療機関との連携: 必要に応じて処方元の医師と連携し、薬の調整を依頼します。

さらに当院では、「潜在性肝性脳症」の診断に力を入れています。

院長である私はこれまで、肝硬変の患者様に潜む「見た目にはわからない軽度の肝性脳症」の実態を研究し、カルニチン補充療法による治療効果を世界で初めて報告してまいりました。

※出典:

この臨床経験と知見を活かし、患者様の眠気や集中力低下が「単なる薬の副作用」なのか、それとも「肝性脳症のサイン」なのかを的確に見極め、最適なアプローチをご提案します。

■ 6. 肝硬変の新しい治療選択肢 ― 「肝臓再生医療」

薬に気を配る必要があるのは、根底にある「肝臓の処理する力」が落ちているからです。

合併症を防ぐために薬を上手に使いこなすことに加え、「薬を処理する肝臓そのものの力を支え、回復を促す」という根本的なアプローチも存在します。

当院は、肝臓再生医療のパイオニアとして、厚生労働省に計画を申請・受理された「自己脂肪由来幹細胞を用いた肝機能障害治療(自由診療)」をご提供しています。

患者様ご自身の皮下脂肪から幹細胞を抽出し、専門の培養施設で増やした後に点滴で体内に戻す治療です。幹細胞が傷ついた肝臓に集まり(ホーミング効果)、肝臓の炎症や線維化の進展を抑え、細胞の再生環境を整えることで、肝機能の維持・改善を目指します。

ご自身の細胞を使うため拒絶反応のリスクが極めて少なく、最も進行した「Child-Pugh C」の患者様にも適応があり、当院では豊富な診療実績もあります。ただし、すべての方に効果を保証するものではないため、肝臓再生医療と合併症を防ぐための標準治療(お薬の継続)の両軸で行うことがとても大切です。

しかしながら、肝がんなど悪性腫瘍がある方や、当院まで通院できる体力がない方は適応外となります。肝臓にまだ「自ら回復しようとする力」が残っているうちのほうが、再生医療による治療効果が得られやすいため、「肝硬変」と診断されたら、選択肢が狭まる前にどうぞお早めにご相談ください。

【費用・リスク・届出について】

本治療は公的医療保険が適用されない自由診療です。

項目費用(税込)
初回(脂肪採取+培養+1回目の幹細胞点滴)3,300,000円
2回目以降の幹細胞点滴(1回あたり)1,100,000円
採取前に輸血が必要な場合(血小板10単位)220,000円
採取前に輸血が必要な場合(新鮮凍結血漿6単位)220,000円

主なリスク・副作用: 脂肪採取部の痛み・内出血・感染、点滴時の発熱やアレルギー反応などが起こる可能性が稀にあります。効果には個人差があります。

届出情報:

・治療名:自己脂肪由来幹細胞を用いた肝機能障害治療
・再生医療等提供計画番号:PB5230080
・審査委員会:日本再生医療協会 特定認定再生医療等委員会(認定番号 NA8200001)
・細胞培養施設:CZEN CLINIC Cell Processing Center(施設番号 FC3220189)
・提供機関:医療法人社団好也会 さいとう内科クリニック(管理者 斉藤雅也)

【総括】肝硬変患者における「薬」との正しい付き合い方と、希望を繋ぐ肝臓再生医療

肝硬変において、薬やサプリメントは時に肝臓へ大きな負担をかける「両刃の剣」となります。肝機能が低下した状態では、一般的な市販薬や睡眠薬、痛み止めであっても、効きすぎや予期せぬ副作用を引き起こし、腹水や肝性脳症といった命に関わる合併症の引き金になる危険性があります。

ご自身の肝予備能を客観的に示す「Child-Pugh分類」を正確に把握し、他の医療機関を受診する際にもそのグレードを必ず伝えることが、安全な薬物治療の第一歩です。

当院では、お薬の総点検や適切な栄養管理による標準治療の徹底に加え、進行した肝硬変に対する新たな治療選択肢として、ご自身の細胞を用いた「自己脂肪由来幹細胞治療(肝臓再生医療)」をご提供しています。

薬の副作用や肝機能の悪化に不安を感じる方は、一人で悩まず、ぜひ標準治療と再生医療の両方ともに精通している当院までお気軽にご相談ください。

この記事の監修・執筆者

さいとう内科クリニック
院長:斉藤 雅也 Masaya Saito

  • 日本内科学会認定医
  • 日本肝臓学会専門医
  • 日本消化器病学会専門医
  • 日本超音波医学会専門医
  • 日本消化器内視鏡学会専門医
院長 斉藤雅也 Masaya Saito

神戸大学医学部附属病院等の最前線で長年消化器・肝臓内科の臨床と研究に従事。医学博士。 標準治療では回復が困難な進行した肝炎や肝硬変に対し、新たな選択肢としての「肝臓再生医療」にいち早く取り組む。また、肝硬変患者さまの中で合併症(潜在性肝性脳症)を有する割合を明らかにし、カルニチンによる潜在性肝性脳症の治療効果を世界で初めて報告するなど、国際的な英文医学誌への論文掲載実績も多数(代表論文:Hepatol Res 2016; 46(2): 215-224)。科学的根拠に基づいた高度な専門知識と精緻な診断で、患者様の肝臓を守るサポートを行っています。
≫ 詳しい経歴や全研究実績はこちら

さいとう内科クリニック
院長
斉藤雅也 Masaya Saito
日本肝臓学会 肝臓病専門医 Hepatologist, The Japan Society of Hepatology
所在地
〒651-2412
兵庫県神戸市西区竜が岡1-15-3
(駐車場18台あり)
電話
  • 電話:078-967-0019
  • 携帯電話:080-7097-5109
アクセス
当院は、神戸市西区と明石市の境界付近に位置しており、明石市からも徒歩圏内です。実際に、明石市方面からも多くの患者様(肝臓病・一般内科)にご来院いただいております。駐車場も完備しておりますので、お車での通院も便利です。