- 2026年8月26日
アルコール関連肝疾患(ALD)の最新知識:MetALDという新概念とハーム・リダクションの考え方

こんにちは。
神戸市西区のさいとう内科クリニック院長の斉藤雅也です。
今回は「アルコール関連肝疾患(ALD:Alcohol-related Liver Disease)」の最新の考え方についてお話しします。
B型肝炎・C型肝炎の治療が大きく進歩した現在、ALDは肝硬変・肝がんの主要な原因として改めて注目されています。また2023年に提唱された「MetALD(代謝関連脂肪肝疾患と飲酒の合併)」という新しい概念や、「完全禁酒」一辺倒ではない「ハーム・リダクション」という治療アプローチについても詳しく解説します。
■ 1. アルコール関連肝疾患(ALD)とは:その全体像と最新動向

アルコール関連肝疾患(ALD)は、過剰なアルコール摂取によって引き起こされる肝臓疾患の総称で、段階的に進行します。
①アルコール性脂肪肝(脂肪性変化)
肝臓に脂肪が過剰に蓄積した最初の段階。この段階では飲酒を止めることで回復します。
②アルコール性肝炎
肝臓に強い炎症が起きた状態。軽症から重症まであり、重症化すると急性肝不全に至ることもあります。
③アルコール性肝線維症
肝臓の炎症が慢性化し、肝臓に線維組織が増えてきた状態。
④アルコール性肝硬変
肝臓全体が線維化し、正常な肝細胞が減少した状態。一度この段階まで進むと完全な回復は難しくなります。
⑤肝がん
肝硬変を基盤として発症するリスクが高まります。
日本では年間約5万人がアルコール関連の肝疾患で入院しており、C型肝炎の治療が劇的に進歩した現在、肝硬変・肝がんの原因としてALDの占める割合が相対的に高まっています。2026年春には「肝硬変診療ガイドライン」の改訂が予定されており、ALDに関する最新知見も盛り込まれる見込みです。
「自分は毎日お酒を飲んでいるが、量は多くない」と思っている方も注意が必要です。日本の基準では、男性で1日純アルコール40g以上(ビール中瓶2本相当)、女性で20g以上の継続飲酒がALDの危険域とされています。女性はアルコール脱水素酵素(ADH)活性が低く、より少ない飲酒量でも肝障害が生じやすいことが知られています。
■ 2. MetALDという新概念:脂肪肝と飲酒の「重なり」が危険

2023年、国際的な疾患名の整理が行われ、従来の「NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)」に代わって「MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)」という名称が採用されました。この整理の中で新たに登場したのが「MetALD(Metabolic dysfunction-Associated Steatotic Liver Disease with Increased Alcohol Intake)」という概念です。
MetALDとは「代謝異常(肥満・糖尿病・高血圧・脂質異常症など)を持ちながら、適量を超えた飲酒(男性で週210〜420g、女性で週140〜350gの純アルコール)をしている患者」に当てはまる新しい分類です。
従来の概念では「アルコール飲酒なし➔NAFLD」「飲酒あり➔ALD」と二分されていましたが、実際にはメタボリックシンドロームと飲酒習慣を両方持つ患者が非常に多く存在します。MetALD患者では以下の2つの肝障害メカニズムが重なります。
- 代謝障害メカニズム(インスリン抵抗性 ➔ 肝臓への中性脂肪蓄積 ➔ 酸化ストレス・炎症)
- アルコールによるメカニズム(アセトアルデヒドの毒性・腸管透過性亢進・腸肝軸の障害・酸化ストレスの増大)
この二重のダメージにより、MetALD患者ではMASLD単独やALD単独の患者よりも肝線維化の進行が速く、肝硬変・肝がんへの移行リスクが高いことが明らかになっています。「少し太っていてお酒も好き」という方は、MetALDのリスクがある可能性があります。早めの肝機能評価が重要です。
■ 3. ハーム・リダクションという新しいアプローチ:断酒だけが答えではない

アルコール関連肝疾患の治療において「断酒(完全にお酒をやめること)」が最も効果的であることは変わりません。断酒によって、アルコール性脂肪肝は数週間〜数ヶ月で回復し、肝炎や軽度の線維化も改善することが多くの研究で示されています。
しかし現実には、アルコール依存症や長年の飲酒習慣を持つ方にとって、一気に完全断酒することは非常に難しいです。そこで近年注目されているのが「ハーム・リダクション(害の軽減)」というアプローチです。
ハーム・リダクションとは、完全断酒を求めるのではなく、飲酒量を段階的に減らしていくことで肝臓への害を軽減していくという考え方です。2023年以降、欧州肝臓学会(EASL)や国際的なアルコール研究の分野では、断酒が難しい患者に対してハーム・リダクションを治療目標の一つとすることを認めるようになっています。日本でも「アルコール関連肝疾患の変遷と最新の潮流」(治療 2026年5月号)でこの考え方が紹介されています。
飲酒量を減らすための具体的な方法

- ノンアルコール飲料・微アルコール飲料へ置き換える
- 1週間のうちに飲酒しない日(休肝日)を週3日以上設ける
- 飲酒する日の量を決める(「1日2ドリンク以内」など)
- 飲み始めの時間を遅らせる・最初の1杯をノンアルコールにする
薬物療法としては、アルコール依存症の治療薬であるナルメフェン(商品名:セリンクロ)が飲酒量低減に有効であることが示されており、断酒を目標とせずに飲酒量の減少を目指す場合にも適応となります。アカンプロサート(断酒補助薬)やジスルフィラム(飲酒時に不快感を起こす薬)も適応によって使用されます。ただし、肝硬変・重症アルコール性肝炎など病態が進行している場合は引き続き完全断酒が必要です。
■ 4. アルコール性肝障害と腫瘍マーカー・肝線維化に対する当院の取り組み
私はアルコール性肝障害に関連する研究も行ってまいりました。
【アルコール性肝障害と腫瘍マーカーNX-PVKA-R】
アルコール性肝障害患者における腫瘍マーカー(NX-PVKA-R)の有用性を検討しました。アルコール性肝障害から肝がんへの進展を早期に察知するための指標として、このマーカーが役立つ可能性を示しました。飲酒習慣のある患者さんへの定期的な腫瘍マーカー測定の重要性を示す研究です。
※出典:
【肝線維化の非侵襲的評価モデル(NX-PVKA)】
肝線維化の進行度を非侵襲的に評価するモデルを提唱しました。アルコール性肝障害においても肝線維化の早期評価は重要であり、適切なタイミングでの治療介入につながります。肝生検なしに肝線維化の程度を推定できるモデルの開発は、患者さんの負担軽減につながります。
※出典:
当院では、飲酒習慣のある患者さんに対して定期的な血液検査と腹部エコー検査を実施し、FIB-4インデックス(肝線維化スコア)の計算も行って肝障害の早期発見・進行度の把握に努めています。
■ 5. 当院でのALD・MetALD診療の流れ

当院では、アルコール関連肝疾患・MetALDの患者さんに対して以下のアプローチで診療を行っています。
【初期評価】
血液検査(AST・ALT・γ-GTP・総ビリルビン・コリンエステラーゼ、プロトロンビン時間・血小板・FIB-4インデックスなど)と腹部超音波検査(エコー)で肝臓の状態を把握します。必要に応じて超音波エラストグラフィーによる肝線維化評価を行います。飲酒量の客観的評価にはAUDIT(アルコール使用障害同定テスト)問診票を活用しています。
【生活習慣指導と個別目標設定】
患者さんの状況に応じた目標(断酒または段階的な飲酒量削減)を設定します。MetALD患者ではMASLDとしての代謝管理(肥満・糖尿病・高血圧の治療)も並行して行うことが重要です。
食事療法(高たんぱく・低脂質・ビタミンB1・葉酸の補充)も指導します。アルコールによりビタミンB1(チアミン)が欠乏するとウェルニッケ脳症の原因となるため、注意が必要です。
【薬物療法の検討】
肝臓の炎症・線維化の治療に加え、必要に応じてアルコール依存症の薬物療法(ナルメフェン・アカンプロサート等)を検討します。また定期的な肝がんスクリーニング(AFP・PIVKA-IIの測定・腹部エコー検査)も行います。
【定期フォローアップ】
3〜6か月ごとの血液検査と6か月ごとの腹部エコー検査で肝臓の状態を継続的に確認します。断酒・飲酒量低減の効果は数週間〜数ヶ月で血液検査に反映されるため、改善を確認しながら治療を継続します。
■ 6. まとめ:飲酒習慣を見直して肝臓を守りましょう

アルコール関連肝疾患(ALD)とMetALDは、現代の日本における肝臓病の中で最も身近なリスクの一つです。「毎日お酒を飲んでいるが量は少ない」「メタボ気味でお酒が好き」という方は、ぜひ一度肝機能の検査を受けてみてください。
肝臓の病気は「沈黙の臓器」と言われるほど初期症状が出にくく、自覚症状が出る頃には相当進行していることがあります。早期発見・早期治療が肝硬変・肝がんへの進行を防ぐ最善の方法です。
完全断酒が難しい方も、ハーム・リダクションの考え方で飲酒量を減らすことから始めることができます。一人で抱え込まずにご相談ください。さいとう内科クリニックでは、飲酒習慣のある方・健診で肝機能異常を指摘された方に対して、専門的な検査と個別の生活指導や治療を行っています。
神戸市西区を中心に、明石市・加古川市・三木市など近隣地域の方もお気軽にご相談ください。
- 院長
- 斉藤雅也 Masaya Saito
日本肝臓学会 肝臓病専門医 Hepatologist, The Japan Society of Hepatology - 所在地
- 〒651-2412
兵庫県神戸市西区竜が岡1-15-3
(駐車場18台あり) - 電話
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- 電話:078-967-0019
- 携帯電話:080-7097-5109
- アクセス
- 当院は、神戸市西区と明石市の境界付近に位置しており、明石市からも徒歩圏内です。実際に、明石市方面からも多くの患者様(肝臓病・一般内科)にご来院いただいております。駐車場も完備しておりますので、お車での通院も便利です。
