• 2026年8月25日

【肝臓病専門医が解説】脂肪肝を放置すると肝がんになる?知っておきたい進行のメカニズムと最新の肝がん治療

こんにちは。

神戸市西区のさいとう内科クリニック院長の斉藤雅也です。

「脂肪肝はそんなに怖くない」と思っている方はいませんか?実は脂肪肝を放置し続けると、脂肪肝炎 ➔ 肝硬変 ➔ 肝がんという深刻な進行をたどるリスクがあります。

近年、ウイルス性肝炎(B型・C型)と並んで、脂肪肝(MASLD/MASH)を背景とした肝がんが増加していることが報告されています。今回のブログでは、脂肪肝から肝がんに至るメカニズム、最新の肝がん治療法、そして肝臓病専門医の立場から、当院での予防・早期発見の取り組みについて解説します。

■ 1.脂肪肝から肝がんへ——進行のメカニズム

MASH関連肝がんの発生メカニズムは、次のような段階を経て進行します。

【第1段階】単純性脂肪肝(MASLD

肝細胞に中性脂肪が蓄積した状態。この段階では炎症はほとんどなく、生活習慣の改善で完全回復が可能です。自覚症状は基本的にありません。

【第2段階】脂肪肝炎(MASH)

脂肪の蓄積に加えて、酸化ストレスや腸内細菌叢の変化などにより炎症が起こります。肝細胞の変性・壊死が始まり、線維化(瘢痕組織の形成)が進行します。この段階でも多くの場合、自覚症状はありません。

【第3段階】肝線維化の進行・肝硬変

炎症が続くことで線維化が進み、肝臓が硬くなります(肝硬変)。肝硬変になると再生能力が低下し、肝機能が著しく落ちます。

【第4段階】肝がん

慢性的な炎症と酸化ストレスにより、肝細胞のDNAに変異が蓄積し、がん化します。特に肝硬変の状態では、年間2〜3%の割合で肝がんが発生するとされています。

注目すべきは「肝硬変にならずに脂肪肝から直接肝がんになるケースも存在する」ことが報告されていることです。特に糖尿病・肥満・高インスリン血症がある場合、肝硬変のない脂肪肝からも肝がんが発生するリスクがあります。

■ 2.増加するMASH関連肝がんと日本の現状

日本における肝がんの原因は、かつてはC型肝炎ウイルスが約70%を占めていました。しかし、C型肝炎に対する直接作用型抗ウイルス薬(DAA)の登場(2014年〜)により、C型肝炎ウイルス陽性の肝がんは急速に減少しています。

一方で、「非B非C型肝がん」(B型・C型肝炎ウイルスと無関係な肝がん)の割合が年々増加しています。その多くがMASLD/MASHやアルコール性肝疾患を背景としており、現在では肝がん全体の約15〜20%を占めるまでになっています。

国立がん研究センターのデータによれば、日本では年間約4万人が肝がんと診断されています。5年生存率は約30〜40%と、他のがんと比較して低い水準にとどまっています。これは肝がんの多くが発見時にすでに進行しているためです。

「太っている」「血糖値が高い」「お酒をあまり飲まないのに肝機能が悪い」という方は、MASH関連肝がんのリスクが高い可能性があります。定期的な画像検査(エコー・CT・MRI)と腫瘍マーカー(AFP・PIVKA-II)のチェックが重要です。

■ 3.肝がんのリスク因子——当てはまる人はすぐに検査を

肝がんの主なリスク因子をまとめます。これらに当てはまる方は、定期的な肝がんスクリーニングが特に重要です。

【高リスク群】

  • B型肝炎ウイルス(HBV)キャリア
  • C型肝炎ウイルス(HCV)既感染者(治癒後も含む)
  • 肝硬変患者(原因を問わず)

【中リスク群(MASH関連)】

  • MASLD/MASH(脂肪性肝疾患)と診断されている方
  • BMI 25以上の肥満
  • 2型糖尿病の合併
  • 高中性脂肪血症・メタボリックシンドローム
  • 飲酒習慣(1日2合以上)

【見落とされがちなリスク群】

  • 「やせ型なのに肝機能が悪い」方(痩せ型MASLD)
  • 40歳以上で一度もB型・C型肝炎ウイルス検査を受けたことがない方

日本では、40歳・45歳・50歳…と5歳ごとの節目に行う「肝炎ウイルス検診」が市区町村で無料または低額で受けられます。まだ検査を受けたことがない方は、この機会にぜひお受けください。当院では積極的に肝炎ウイルス検査を行っています。

■ 4.内臓脂肪と肝がん予後に関する当院の取り組み

院長は、内臓脂肪蓄積が肝がんの予後に与える影響について研究を行ってまいりました。

【内臓脂肪と肝がん予後に関する研究】

CT画像を用いて腹部内臓脂肪面積を計測し、肝がん治療後の予後との関連を検討しました。内臓脂肪が多い患者さんは、肝がんの再発率が高く、全生存期間が短い傾向があることを報告しています。

※出典:

また、アルコール性肝疾患における腫瘍マーカーの研究も行っています。

【アルコール性肝障害・腫瘍マーカーNX-PIVKA-Rに関する研究】

アルコール性肝疾患において「NX-PVKA-R」という新規腫瘍マーカーが有用であることを報告しており、アルコールを好む方の肝がんの早期発見に役立てることを目指しています。

※出典:

内臓脂肪・肥満・アルコールという「生活習慣に根ざしたリスク因子」を科学的に評価し、個別化した予防戦略を立てることが大切だと考えています。

■ 5.肝がんの最新治療——2026年現在の選択肢

肝がんの治療は、ここ数年で劇的に進歩しました。主な治療選択肢をご紹介します。

外科的切除

肝機能が保たれており、腫瘍が切除可能な場合に行います。ロボット支援下肝切除術が普及し、より精密な切除が可能になりました。

肝動脈化学塞栓療法(TACE)・肝動脈注入化学療法(HAIC)

血管からカテーテルを使い、腫瘍に栄養を送る動脈を塞ぎ(塞栓)、同時に抗がん剤を直接注入する方法です。切除できない中等度の肝がんに有効です。

ラジオ波焼灼療法(RFA)

細い針を腫瘍に刺し、高周波電流で腫瘍を焼く治療法です。腫瘍が3cm以下・3個以内の場合に特に有効です。

粒子線治療(重粒子線・陽子線)

放射線を高精度でピンポイント照射する治療法で、一部の肝がんで保険適用となっています。

免疫チェックポイント阻害薬

免疫のブレーキを外してがんを攻撃させる薬物療法です。アテゾリズマブ+ベバシズマブ、ニボルマブ+イピリムマブ、トレメリムマブ+デュルバルマブなどが一次治療として使用されています。

治療選択は腫瘍の個数・大きさ・肝機能・全身状態など多くの因子を考慮して決定されます。当院では肝臓病専門医の立場から、最適な治療施設への紹介と連携も行っています。

■ 6.よくあるご質問(Q&A)

Q1. 脂肪肝になってから肝がんになるまで、どのくらいの年数がかかりますか?

A1. 個人差が非常に大きいですが、一般的には数年から数十年単位の時間をかけて徐々に進行します。ただし、糖尿病や強いインスリン抵抗性がある方の場合は、肝硬変を経ずに数年で急速に肝がんが発生するケースも報告されているため、年数にかかわらず早期の経過観察が重要です。

Q2. 健康診断の血液検査(ASTやALT)が正常値であれば、肝がんの心配はありませんか?

A2. いいえ、安心はできません。すでに肝硬変や進行した脂肪肝であっても、血液検査での肝臓の数値(AST/ALT)が正常範囲内に落ち着いてしまっているケース(Burn-out MASH)が存在します。数値だけでなく、腹部超音波(エコー)検査などで肝臓の形態や硬さを確認することが不可欠です。

Q3. 飲み薬でC型肝炎ウイルスが消滅・治癒したのですが、それでも肝がんの検査は必要ですか?

A3. はい、絶対に必要です。ウイルスが消滅しても、過去に受けていた肝臓のダメージ(線維化)は残存しているため、肝がんの発症リスクはゼロにはなりません。ウイルス除去後も半年に1回程度の定期的な腹部エコー検査や腫瘍マーカーのチェックを継続してください。

Q4. 脂肪肝による肝がんを防ぐために、日常生活で最も効果的な対策は何ですか?

A4. 適正体重の維持(食事改善と筋トレ等の運動)による内臓脂肪の減少と、糖尿病や高脂血症などの持病を適切に治療することです。特に「自重筋トレ」によって筋肉量を増やし、糖や脂肪を燃やしやすい代謝を作ることが最大の防衛策になります。

Q5. 脂肪肝から肝硬変まで進行してしまった場合、がん予防や回復のための治療法はありますか?

A5. 従来の治療では進行を遅らせることが中心でしたが、当院では患者様ご自身の細胞を活用した「肝臓再生医療(自己脂肪由来幹細胞療法)」という最先端の治療選択肢もご用意しています。幹細胞の抗炎症作用によって肝臓の慢性炎症を抑え、線維化の修復を促すことで、肝がんの発生母地となる環境を整えるアプローチを行っています。

■ 7.まとめ・受診のご案内

今回のブログのポイントをまとめます。

  • 脂肪肝(MASLD)➔ 脂肪肝炎(MASH)➔ 肝硬変 ➔ 肝がんという進行経路があります
  • 日本でMASH関連肝がんが増加しており、全肝がんの約15〜20%を占めます
  • 肝硬変のない脂肪肝からでも肝がんが発生するケースがあります
  • 肥満・糖尿病・高中性脂肪血症は肝がんの重要なリスク因子です
  • 肝がんの治療は外科切除・TACE・RFA・重粒子線・免疫療法など多様な選択肢があります
  • 早期発見が予後を大きく左右します

「健康診断で肝機能が悪かった」「脂肪肝と言われてそのまま放置している」「糖尿病と肥満があって肝臓が心配」という方は、ぜひ早めに当院にご相談ください。

当院では肝臓病専門医である院長の斉藤雅也が直接診察し、血液検査・腹部エコー検査・超音波エラストグラフィー検査、必要に応じてCT検査を通じて総合的に評価します。脂肪肝の段階から正しく管理することが、将来の肝がん予防への最善の道です。

この記事の監修・執筆者

さいとう内科クリニック
院長:斉藤 雅也 Masaya Saito

  • 日本内科学会認定医
  • 日本肝臓学会専門医
  • 日本消化器病学会専門医
  • 日本超音波医学会専門医
  • 日本消化器内視鏡学会専門医
院長 斉藤雅也 Masaya Saito

神戸大学医学部附属病院等の最前線で長年消化器・肝臓内科の臨床と研究に従事。医学博士。 標準治療では回復が困難な進行した肝炎や肝硬変に対し、新たな選択肢としての「肝臓再生医療」にいち早く取り組む。また、肝硬変患者さまの中で合併症(潜在性肝性脳症)を有する割合を明らかにし、カルニチンによる潜在性肝性脳症の治療効果を世界で初めて報告するなど、国際的な英文医学誌への論文掲載実績も多数(代表論文:Hepatol Res 2016; 46(2): 215-224)。科学的根拠に基づいた高度な専門知識と精緻な診断で、患者様の肝臓を守るサポートを行っています。
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さいとう内科クリニック
院長
斉藤雅也 Masaya Saito
日本肝臓学会 肝臓病専門医 Hepatologist, The Japan Society of Hepatology
所在地
〒651-2412
兵庫県神戸市西区竜が岡1-15-3
(駐車場18台あり)
電話
  • 電話:078-967-0019
  • 携帯電話:080-7097-5109
アクセス
当院は、神戸市西区と明石市の境界付近に位置しており、明石市からも徒歩圏内です。実際に、明石市方面からも多くの患者様(肝臓病・一般内科)にご来院いただいております。駐車場も完備しておりますので、お車での通院も便利です。