• 2026年7月12日

【肝臓病専門医が解説】進行肝臓がん(HCC)の最新免疫療法——アテゾリズマブ+ベバシズマブからコンバージョン手術まで

こんにちは。
神戸市西区のさいとう内科クリニック院長の斉藤雅也です。

肝臓がん(肝細胞がん:HCC)の治療は、2020年以降に大きなパラダイムシフトが起きました。約10年以上にわたって標準治療だった分子標的薬「ソラフェニブ」に代わり、免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬を組み合わせた「アテゾリズマブ+ベバシズマブ(テセントリク+アバスチン)」療法が進行HCCの第一選択治療となったのです。今回は、この革命的な治療法と最新の「コンバージョン手術」の概念について解説します。

■1. 肝細胞がん(HCC)の現状——発見時には進行していることが多い理由

肝細胞がん(HCC)は、日本のがん死亡原因の上位に位置する重要な疾患です。年間約3万人以上が肝臓がんで死亡しており、がん全体の死亡数の中でも高い位置にあります。

HCCの最大の問題は、肝臓が「沈黙の臓器」であるため、早期発見が難しいことです。慢性B型・C型肝炎や肝硬変の患者様は定期的なエコー検査・血液検査(AFP、PIVKA-IIなど)によるサーベイランスが推奨されており、これにより早期発見の確率は高まります。しかし、サーベイランスを受けていない方や、MASLDの患者様は、肝線維化の程度が軽度のため定期検査を受けていないケースも多く、初診時に進行したHCCとして発見されることが少なくありません。

HCCの病期分類として、日本では肝癌取扱い規約に基づく分類やBCLC(Barcelona Clinic Liver Cancer)ステージングが用いられます。早期(A期)は肝切除・焼灼術・肝移植により根治を目指せますが、中期(B期)以降になると手術適応が限られ、肝動脈化学塞栓療法(TACE)や全身薬物療法が治療の中心となります。

■2. なぜ免疫療法が肝臓がんに有効なのか—免疫チェックポイント阻害薬の仕組み

私たちの体には、がん細胞を攻撃する免疫機能(主にT細胞)が備わっています。しかしがん細胞は、「免疫チェックポイント分子」と呼ばれる仕組みを利用してT細胞の攻撃を抑制・回避することがあります。代表的な免疫チェックポイントがPD-1/PD-L1経路です。

「アテゾリズマブ」はPD-L1(プログラム細胞死リガンド1)を阻害する抗体薬で、がん細胞がT細胞にブレーキをかけるのを防ぎ、免疫による攻撃を再活性化します。「ベバシズマブ」はVEGF(血管内皮増殖因子)を阻害する分子標的薬で、がん組織への血流供給を遮断するとともに、免疫抑制的な腫瘍縮小環境を改善する効果も併せ持ちます。この2剤の組み合わせが相乗効果を発揮することが、IMbrave150試験で実証されました。

IMbrave150試験(2019〜2020年に発表)では、アテゾリズマブ+ベバシズマブはソラフェニブに比べ、病勢進行リスクを41%、死亡リスクを42%、それぞれ有意に低下させました。全生存期間(OS)中央値は19.2ヶ月(ソラフェニブ群13.4ヶ月)と大幅な改善が示され、2020年に日本でも承認されました。

■3. ASCO GI 2025で注目:コンバージョン手術の可能性

2025年1月に米国で開催されたASCO消化器がんシンポジウム(ASCO GI 2025)では、アテゾリズマブ+ベバシズマブ療法後の「コンバージョン手術」に関する重要な研究成果が発表されました。

コンバージョン手術(Conversion Surgery)とは、初診時には手術適応外と判断されていた進行HCCの患者様に対して、薬物療法(アテゾリズマブ+ベバシズマブ)を先行することで腫瘍を縮小させ、根治的な外科手術(切除)や焼灼術が可能な状態に転換させる治療戦略です。

日本多施設共同前向き試験(RACB試験)の報告では、切除不能HCCへのアテゾリズマブ+ベバシズマブ先行療法後のコンバージョン手術において、全体の切除率は48%と高い成功率が示されました。手術後の重篤な合併症は少なく、安全性も確認されています。

これは非常に重要な進歩です。これまで「もう手術はできない」と言われていた患者様にも、薬物療法を経て根治(がんの完全除去)のチャンスが生まれるということを意味しています。近畿大学の報告では中期肝がん患者の約35%がコンバージョン手術によって根治に至ったとされており、今後この治療戦略の普及が期待されます。

■4. 院長の研究:内臓脂肪とBCAA補充の肝がん治療後の役割

肝臓がんの予後に影響する因子として、私は内臓脂肪と栄養状態の研究も行っています。論文「J Cancer Ther 2015 ——内臓脂肪と肝がん予後の関係」では、HCC患者様における内臓脂肪量が治療後の再発率や生存率に影響することを検討しました。内臓肥満を伴うHCC患者様では肝臓の予備能が低下しやすく、治療の適応や効果にも影響が出ることが示唆されました。

また、分岐鎖アミノ酸(BCAA:ロイシン・イソロイシン・バリン)の補充療法が肝がんの治療後の栄養状態改善・再発抑制・QOL向上に寄与する可能性についても研究を続けています。BCAAは肝臓での合成が低下した肝硬変・肝がんの患者様では特に不足しやすく、適切な補充が治療成績に良い影響を与えることが期待されます。

これらの研究知見から、当院では肝臓がんの治療中・治療後においても体組成評価(筋肉量・脂肪量)・栄養状態の評価を積極的に行い、BCAA製剤の処方・食事指導を組み合わせた総合的な管理を行っています。

※内臓脂肪と肝がん治療後の予後に関する院長の研究については、こちらの論文をご参照ください。

https://www.scirp.org/journal/paperinformation?paperid=61672

■5. 早期発見こそが最大の治療-定期的なサーベイランスの重要性

免疫療法やコンバージョン手術など進行HCCの治療が進歩しているとはいえ、最も重要なのはやはり「早期発見」です。早期のHCCは5年生存率が80%以上に達しますが、進行してから発見されると大幅に予後が悪化します。

高リスクの患者様(B型・C型肝炎ウイルスキャリア、肝硬変の患者様、MASLD/MASHで線維化が進んでいる方)は、6ヶ月ごとの腹部超音波検査(エコー)と血液検査(AFP・PIVKA-IIを含む)が推奨されています。さらに高リスクの方(肝硬変合併者など)には年1〜2回の腹部造影CT・MRIも検討されます。

エコー検査は被曝がなく、費用対効果も高い優れたスクリーニング検査です。当院では肝臓病専門医が直接腹部エコー検査を実施し、肝臓がんなど早期異常を発見することに注力しています。

■6. 肝臓がんへの不安がある方は肝臓病専門医への相談を

アテゾリズマブ+ベバシズマブ療法の登場により、進行肝臓がん(HCC)の治療は10年ぶりのパラダイムシフトを迎えました。さらにコンバージョン手術の概念が広がり、初診時に「手術不可」とされた患者様にも根治の機会が生まれています。一方、最良の治療成績を得るためには、やはり定期的なサーベイランスによる早期発見が最も重要であることに変わりはありません。

神戸市西区のさいとう内科クリニックでは、B型・C型肝炎・MASLD・肝硬変を抱える患者様の定期的な肝臓サーベイランスを実施しています。また、肝臓がんの診断後の治療方針の相談、大学病院・がん専門医療機関への適切な紹介も行っています。「肝炎があって心配」「エコーで肝臓に異常を指摘された」「肝臓がんの治療について相談したい」という方は、ぜひお気軽にご相談ください。

また、肝臓がんが治癒した後も、背景にある「肝硬変」が完全に治ったわけではありません。当院では、がん治療を乗り越えた患者様に対し、残された肝機能の回復や肝臓がんの再発予防の土台作りを目指す「肝臓再生医療(幹細胞治療)」という新たな治療選択肢もご提案しております(※がんと闘病中の方は安全性の観点から再生医療をお受けいただけませんが、完全寛解後であれば治療の対象となり得ます )。

遠方にお住まいの方や、すぐに来院が難しい方のために、Curon(クロン)を利用したオンラインでの事前相談も受け付けております。パソコンやスマホの操作に不慣れな方は、診療時間内であれば、お電話でお問い合わせいただけます。外来診療が落ち着きましたら、こちらからお電話をかけ直させていただきます。どうぞ、お一人で悩まず、お気軽にお問い合わせください。

この記事の監修・執筆者

さいとう内科クリニック
院長:斉藤 雅也 Masaya Saito

  • 日本内科学会認定医
  • 日本肝臓学会専門医
  • 日本消化器病学会専門医
  • 日本超音波医学会専門医
  • 日本消化器内視鏡学会専門医
院長 斉藤雅也 Masaya Saito

神戸大学医学部附属病院等の最前線で長年消化器・肝臓内科の臨床と研究に従事。医学博士。 標準治療では回復が困難な進行した肝炎や肝硬変に対し、新たな選択肢としての「肝臓再生医療」にいち早く取り組む。また、肝硬変患者さまの中で合併症(潜在性肝性脳症)を有する割合を明らかにし、カルニチンによる潜在性肝性脳症の治療効果を世界で初めて報告するなど、国際的な英文医学誌への論文掲載実績も多数(代表論文:Hepatol Res 2016; 46(2): 215-224)。科学的根拠に基づいた高度な専門知識と精緻な診断で、患者様の肝臓を守るサポートを行っています。
≫ 詳しい経歴や全研究実績はこちら

さいとう内科クリニック
院長
斉藤雅也 Masaya Saito
日本肝臓学会 肝臓病専門医 Hepatologist, The Japan Society of Hepatology
所在地
〒651-2412
兵庫県神戸市西区竜が岡1-15-3
(駐車場18台あり)
電話
  • 電話:078-967-0019
  • 携帯電話:080-7097-5109
アクセス
当院は、神戸市西区と明石市の境界付近に位置しており、明石市からも徒歩圏内です。実際に、明石市方面からも多くの患者様(肝臓病・一般内科)にご来院いただいております。駐車場も完備しておりますので、お車での通院も便利です。