• 2026年8月24日

【肝臓病専門医が解説】お酒を飲まないのに脂肪肝?「肝筋相関」から紐解く、筋肉を守る食事療法の手引き

こんにちは。

神戸市西区のさいとう内科クリニック院長の斉藤雅也です。

「食べすぎているわけでもないし、お酒も飲まないのに、健康診断で脂肪肝を指摘された」という方が近年急増しています。事実、日本の成人の約3人に1人が脂肪肝に罹患していると推計されています。

脂肪肝は痛みや発熱を伴わない「沈黙の疾患」であるため、放置されがちです。しかし、これを改善するための最大の鍵は、肝臓の治療そのものではなく「筋肉の質と量」にあることをご存知でしょうか。

本記事では、肝臓病専門医の知見をもとに、脂肪肝と筋肉との密接な関係(肝筋相関)のメカニズムや、極端な食事制限の落とし穴、そして医学的視点から推奨される具体的な食事療法について詳しく解説いたします。

■1. 脂肪肝の背景にある「偏った食習慣」と基礎代謝の低下

脂肪肝と聞くと、アルコールの過剰摂取や暴飲暴食をイメージされるかもしれません。しかし実際には、「朝はパンとコーヒーのみ」「昼は忙しくて菓子パンだけ」「まともな食事は夜の1食のみ」といった、不規則で糖質に偏った食生活の積み重ねが原因で進行するケース(MASLD:代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)が非常に多いのです。このような食生活が続くと、使い切れなかったエネルギーが脂肪として肝臓に蓄積されやすくなります。

ここで着目すべきは「基礎代謝」です。私たちは安静にしている時でもエネルギーを消費しており、この基礎代謝の大部分を「肝臓(全体の27%)」「脳(19%)」「筋肉(18%)」が担っています。加齢(特に40代以降)や偏食によって筋肉量が低下すると、この基礎代謝も落ちてしまい、24時間を通じて「脂肪が燃焼しにくい体」へと変化してしまうのです。

■2. 筋肉は肝臓を救う:「糖の貯蔵庫」と「分泌臓器」としての役割

筋肉は、単に体を動かすための運動器官ではなく、全身の代謝を司る重要な臓器です。このように肝臓と筋肉が互いに深く影響し合い、代謝を支え合う関係性を、医学用語で「肝筋相関(かんきんそうかん)」と呼びます。脂肪肝対策において筋肉が重要視されるのには、大きく2つの生化学的な理由があります。

第一に、筋肉は「巨大な糖の貯蔵庫」として機能します。

食後、血液中に入った糖は筋肉に取り込まれ、エネルギーやグリコーゲンとして蓄えられます。しかし、筋肉量が少ないとこの貯蔵庫の容量が小さくなるため、受け止めきれずに余った糖が肝臓へと送られ、中性脂肪に変換されて蓄積してしまいます。これが脂肪肝の直接的な原因です。さらに、食後の糖が血液中に漂いやすくなるため、食後高血糖(血糖値スパイク)を引き起こす要因にもなります。

第二に、筋肉は「分泌臓器」としての側面を持ちます。

最新の研究により、筋肉を動かすことで「マイオカイン」と呼ばれる生理活性物質が分泌されることが判明しています。マイオカインは血流に乗ってホルモンのように全身を巡り、肝臓や脂肪組織に直接働きかけて、脂肪の分解や代謝の維持を強力にサポートしているのです。

■3. むやみな食事制限の罠:「糖新生」による筋肉の分解

脂肪肝を指摘されると、多くの人が「とにかく食べる量を減らそう」「糖質を完全にカットしよう」と考えがちです。しかし、やみくもに食事量や回数を減らすことは、医学的に見て非常に危険なアプローチです。

私たちの体には、血糖値を一定に保つための精巧なシステムが備わっています。極端に糖質を制限したり食事を抜いたりすると、体は肝臓においてアミノ酸や乳酸などを材料に新たにブドウ糖を作り出す「糖新生(とうしんせい)」という反応を起こします。

十分なタンパク質が補給されていない状態でこの糖新生が活発になると、体は「自身の筋肉を分解」してアミノ酸を取り出し、それを材料に糖を作り出そうとします。その結果、体重の数値は落ちたとしても、肝心な筋肉量までごっそりと減ってしまい、結果的に「リバウンドしやすく、脂肪が燃えにくい体」を自ら作り出してしまうことになります。

■4. 肝臓病専門医が推奨する「鶏むね肉」の生化学的メリット

筋肉を維持しながら肝臓の脂肪を落とすために、肝臓病専門医が「肝臓をいたわるNo.1食材」として推奨するのが「鶏むね肉」です。これには明確な生化学的理由があります。

糖原性アミノ酸の供給

鶏むね肉にはアラニンやグルタミンといったアミノ酸が豊富です。これらを補給することで、体内のアミノ酸プールが満たされ、自身の筋肉を分解して糖新生の材料を捻出するプロセスを防ぐことができます。

BCAA(分岐鎖アミノ酸)による筋肉合成のスイッチ

鶏むね肉には、ロイシン、イソロイシン、バリンから構成されるBCAAが豊富に含まれています。BCAAは筋肉の分解を抑えるだけでなく、なかでも「ロイシン」は筋タンパク質合成のスイッチをオンにする極めて重要な役割を果たします。

【肝臓病専門医の深掘り:BCAAによる代謝サポート】

肝臓を休ませるためには、第2の代謝工場である「筋肉」を維持し、助けを借りることが不可欠です。

実際に私は、肝がんの治療(ラジオ波焼灼療法)を受けた患者様に対し、BCAAを補給して代謝をサポートすることで、全身のエネルギー代謝の状態(非蛋白呼吸商)が有意に維持・改善することを臨床研究で実証しています。

肝臓へのダメージが大きい治療後であっても回復効果が示されている通り、日常の食事からBCAAをしっかり補給して筋肉を味方につけることは、脂肪肝の予防・改善においても科学的に極めて合理的なケアなのです。

※出典:

■5. 臨床に基づく実践的栄養療法:食べる量、タイミング、組み合わせ

筋肉を守り、脂肪肝を根本から改善するための具体的な食事のルールを解説します。

タンパク質は「1日3回、均等に」摂取する

筋肉を維持するために必要なタンパク質量は、一般的な成人であれば1食あたり約20g程度が必要です。鶏むね肉であれば、約100g(およそ1枚の3分の1)で1食分がまかなえます。重要なのは「まとめ食い」を避けることです。タンパク質は体内に長期間貯蔵できず、一度に大量に摂取しても余剰分は脂肪へと変換されてしまいます。朝・昼・晩にこまめに摂取することが不可欠です。

適量な糖質の摂取

糖質を極端にゼロにするのは前述の通り筋肉の分解を招きます。ご飯であれば1食あたり茶碗半分(約70g)程度にコントロールし、エネルギー不足を防ぎましょう。

食物繊維と植物性タンパク質の相乗効果

豆腐などの大豆製品を組み合わせることで、植物性タンパク質もバランスよく補えます。さらに、野菜、きのこ類、海藻類を意識して取り入れ、「ベジファースト」で食物繊維を確保しましょう。腸内環境を整えることで、腸から肝臓へと送られる血液の質が改善し(腸肝相関)、肝臓の炎症を抑えるのに大いに役立ちます。

■よくあるご質問(Q&A)

Q1. 筋肉を落とさないために、プロテインなどのサプリメントを大量に飲んでもいいですか?

A1. 肝臓病専門医としてはおすすめしません。肝臓はタンパク質の代謝を行う臓器であり、プロテインやサプリメントでの過剰な摂取は、かえって肝臓の解毒作業に負担をかけ、薬剤性肝障害の原因となるケースがあります。基本は「日々の食事」から良質なタンパク質をこまめに摂ることが最も安全です。

Q2. 筋肉を動かすには、どのような運動が良いですか?

A2. 基礎代謝を上げるためには、太ももなどの大きな筋肉を鍛える「スクワット」などの自重筋トレが非常に効果的です。テレビを見ながらなど、1日10分程度でも構いません。ウォーキングなどの有酸素運動と組み合わせることで、さらに脂肪が燃えやすい体になります。

Q3. 早く脂肪肝を治したいので、お米やパンなどの糖質を完全にゼロにしてもいいですか?

A3. 絶対に避けてください。糖質を極端にカットすると、脳や体がエネルギー不足に陥り、それを補うために自身の「筋肉を分解」してしまいます。筋肉が減ると基礎代謝が落ち、結果的に「脂肪が燃えにくい(痩せにくく太りやすい)体」を作ってしまい逆効果です。

Q4. 鶏むね肉が体に良いとのことですが、市販のサラダチキンでも大丈夫ですか?

A4. 手軽にタンパク質を摂る手段としては有効ですが、注意点もあります。市販のサラダチキンには塩分や添加物、脂質が多く含まれている商品もあるため、塩分控えめのものを選ぶか、ご家庭で蒸し鶏やゆで鶏を作るのが最も理想的です。

Q5. 1回の食事でたくさんタンパク質を摂った方が筋肉がつきやすいですか?

A5. いいえ、タンパク質は一度に吸収・利用できる量に上限(1食あたり約20g)があります。夕食などで一度に大量に食べても、利用されなかった分は脂肪として溜め込まれ、肝臓・腎臓の負担になってしまいます。朝・昼・夕の3食に分けて均等に摂ることが大切です。

■まとめ——決して諦めないで!肝臓再生医療という治療選択肢

脂肪肝を指摘されたとき、「食事さえ減らせばなんとかなる」と考えがちですが、肝臓は筋肉や腸といった他の臓器とのネットワークによって代謝を維持しています。

当院では、単なる肝臓の数値管理にとどまらず、患者様一人ひとりのライフスタイルや肝臓の代謝状態を深く分析した上で、医学的根拠に基づいた栄養指導を行っております。

もし、生活習慣を改善しているにもかかわらず肝臓の数値が改善しない、あるいはすでに炎症や線維化(硬化)が進行していると診断された場合、食事や運動療法だけでは限界があるのも事実です。

当院では、そうした進行性の肝疾患に直面されている患者様に対し、標準治療と並行して患者様ご自身の細胞を用いた「肝臓再生医療(自己脂肪由来幹細胞療法)」という治療法もご提案しています。点滴で幹細胞を投与し、肝臓の慢性炎症や線維化の進展を抑え、線維化の修復をも促す最先端のアプローチです。

「健康診断で肝硬変を指摘されて以来、ずっと悩んでいる」

「もうこれ以上、肝硬変が進まないか不安だ」

そのような方は、決して一人で抱え込まず、当院へお気軽にご相談ください。遠方にお住まいで通院が難しい方のために、ご自宅にいながらスマホで受診できるオンライン事前相談(Curon)を受け付けております。また、インターネットの操作が不慣れな方は、診療時間内にお電話をいただいても構いません。院長の外来診療が落ち着きましたら、こちらからお電話をかけ直させていただきます。

まずは現状を正しく知ることが、未来を変える第一歩です。どうぞお気軽にお問い合わせください。

この記事の監修・執筆者

さいとう内科クリニック
院長:斉藤 雅也 Masaya Saito

  • 日本内科学会認定医
  • 日本肝臓学会専門医
  • 日本消化器病学会専門医
  • 日本超音波医学会専門医
  • 日本消化器内視鏡学会専門医
院長 斉藤雅也 Masaya Saito

神戸大学医学部附属病院等の最前線で長年消化器・肝臓内科の臨床と研究に従事。医学博士。 標準治療では回復が困難な進行した肝炎や肝硬変に対し、新たな選択肢としての「肝臓再生医療」にいち早く取り組む。また、肝硬変患者さまの中で合併症(潜在性肝性脳症)を有する割合を明らかにし、カルニチンによる潜在性肝性脳症の治療効果を世界で初めて報告するなど、国際的な英文医学誌への論文掲載実績も多数(代表論文:Hepatol Res 2016; 46(2): 215-224)。科学的根拠に基づいた高度な専門知識と精緻な診断で、患者様の肝臓を守るサポートを行っています。
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さいとう内科クリニック
院長
斉藤雅也 Masaya Saito
日本肝臓学会 肝臓病専門医 Hepatologist, The Japan Society of Hepatology
所在地
〒651-2412
兵庫県神戸市西区竜が岡1-15-3
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  • 携帯電話:080-7097-5109
アクセス
当院は、神戸市西区と明石市の境界付近に位置しており、明石市からも徒歩圏内です。実際に、明石市方面からも多くの患者様(肝臓病・一般内科)にご来院いただいております。駐車場も完備しておりますので、お車での通院も便利です。