• 2026年10月20日

肝細胞がんの最新免疫療法:アテゾリズマブ+ベバシズマブとコンバージョン手術の最前線

こんにちは。

神戸市西区のさいとう内科クリニック院長の斉藤雅也です。

本日は、肝細胞がん(肝がん)の治療において近年急速に進歩している免疫療法の最新動向についてお伝えします。

特に、アテゾリズマブとベバシズマブの併用療法(以下、アテゾ+ベバ療法)と、その先にある「コンバージョン手術」という新たな治療戦略について解説します。

進行した肝がんとの闘いに、いま大きな希望が生まれています。

■ 肝細胞がんとはどのような病気か

肝細胞がん(肝がん)は、肝臓を構成する肝細胞が悪性化したがんです。日本では毎年約4万人が罹患し、がん死亡原因の上位を占める重大な疾患です。

その大きな特徴は、健康な肝臓に突然できるのではなく、多くの場合「慢性肝炎」や「肝硬変」という長年の病変を土台として発症する点です。B型・C型肝炎ウイルスによる慢性肝炎、アルコール性肝障害、原発性胆汁性胆管炎、そして近年急増しているMASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)やMASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)が主な発がんリスクとして知られています。

肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、かなり病状が進行するまで痛みなど自覚症状を出すことはありません。そのため、気づいたときには進行しているケースが少なくありません。 慢性肝疾患をお持ちの方は、定期的な腹部エコー検査や血液での腫瘍マーカー検査(AFP、PIVKA-IIなど)を欠かさず受けることが、早期発見への唯一の道です。

早期に発見できれば、外科的切除やラジオ波焼灼術(RFA)などの局所治療で根治が目指せます。一方、発見時に腫瘍が広がっていたり血管に浸潤していたりする場合は、全身薬物療法が選択されます。そして近年の免疫療法の登場により、切除不能とされた進行肝がんの治療成績は劇的に向上しています。

■ アテゾリズマブ+ベバシズマブ療法とはどのような治療か

アテゾリズマブ(商品名:テセントリク)は「免疫チェックポイント阻害薬」の一種で、がん細胞が免疫細胞(T細胞)に送る「攻撃停止シグナル(PD-L1)」を遮断し、患者様自身の免疫ががんを攻撃できるようブレーキを解除する薬です。

一方、ベバシズマブ(商品名:アバスチン)は「抗VEGF抗体」で、がん細胞が酸素や栄養を取り込むために新しく血管を作る動き(血管新生)を邪魔する薬です。 この2つを併用することで、「免疫の活性化」と「兵糧攻め(血管遮断)」の両面から強力にがんを攻撃します。

臨床試験(IMbrave150試験)において、アテゾ+ベバ療法は従来の標準薬を大きく上回る延命効果と高い腫瘍縮小効果(奏効率約30%)を証明し、現在の切除不能進行肝がんにおける第一選択薬として確立されました。

ただし、副作用の管理には厳重な注意が必要です。 免疫が過剰に活性化することで起こる「免疫関連有害事象(irAE:間質性肺炎、重症肝炎、甲状腺機能障害など)」に加え、ベバシズマブによる高血圧、タンパク尿、出血リスクがあります。

特に肝硬変を合併している患者様では、治療開始前に必ず胃カメラ(上部消化管内視鏡)を行い、食道静脈瘤の出血リスクを事前に評価・処置しておくことが極めて重要です。

■ コンバージョン手術という新たな戦略

「コンバージョン手術」とは、初診時には腫瘍が大きすぎたり血管に入り込んでいたりして手術ができなかった肝がんが、薬物療法によって著しく縮小・消失し、改めて手術(切除)が可能になって根治を目指す治療戦略のことです。

2026年のASCO(米国臨床腫瘍学会)では、日本国内で実施された多施設共同研究(RACB試験)の解析結果が発表され、切除不能肝細胞がんに対してアテゾ+ベバ療法を行った患者様のうち、約半数(48%)でコンバージョン手術が実施できたという驚くべき成果が報告されました。 これは従来の抗がん剤治療では考えられなかった高い割合であり、「進行肝がん=手術できない、治らない」というこれまでの常識を覆しつつあります。

さらに、STRIDE療法(トレメリムマブ+デュルバルマブ)などの新たな免疫複合療法や、カテーテル治療(TACE)と免疫療法を組み合わせた集学的アプローチも進化を遂げており、進行した状態からでも諦めずに適切な専門治療へつなぐ価値が一段と高まっています。

■ 院長による肝がん研究:内臓脂肪と腫瘍マーカー

私は肝臓病専門医として、これまで肝がんの予後改善や早期診断に関する臨床研究に深く携わってまいりました。肝がんの治療成績には、単に腫瘍の大きさだけでなく、患者様ご自身の全身状態や身体組成(筋肉量や脂肪量)が深く関わっています。

私どもの研究チームでは、カテーテル治療(TACE)を受けた肝がん患者様において、内臓脂肪の過剰な蓄積が治療後の死亡リスクを高める独立した要因であることを明らかにし、論文として発表しました。治療中も筋肉量を落とさず、適切な代謝状態を保つ栄養管理が極めて大切です。

※内臓脂肪と肝がん予後に関する研究:

また、肝がんを早期に見抜くための新規腫瘍マーカー「NX-PVKA-R」に関する研究も行ってまいりました。 従来の腫瘍マーカー(PIVKA-II)は、お酒を多く飲む方ではがんが無くても数値が上がってしまう(偽陽性)という課題がありました。

しかし、私どもの研究により、NX-PVKA-Rはアルコールの影響を受けずに肝がんの存在を正確に捉えられることが実証されました。

※腫瘍マーカーNX-PVKA-Rに関する研究:

■ 当院で肝がんの診断・治療をトータルサポート

神戸市西区のさいとう内科クリニックでは、肝臓病専門医として、肝がんの早期発見と治療中の患者様のトータルサポートに力を注いでいます。

高精度なスクリーニング体制

慢性肝炎や肝硬変、脂肪肝をお持ちの患者様に対し、腹部超音波検査、超音波エラストグラフィ(肝硬度測定)、腫瘍マーカー(AFP、PIVKA-II)を定期的に組み合わせ、ミリ単位の微小ながんも見逃さないよう早期発見に努めています。

基幹病院との緊密な連携

精密検査で肝がんが発見された場合は、神戸大学医学部附属病院など地域の高度がん診療連携拠点病院と速やかに連携し、患者様にとって最善の治療法(手術、ラジオ波、カテーテル治療、免疫療法など)をスムーズに選択できるよう橋渡しを行います。

免疫療法中の併診・副作用・栄養サポート

高度医療機関でアテゾ+ベバ療法などの薬物療法を受けられている患者様の「身近なかかりつけ医」として、治療中の全身管理をサポートします。

irAE(immune-related adverse events:免疫関連有害事象)の早期兆候を見逃さない血液検査のフォローや、食欲不振・体重減少に対するアミノ酸(BCAA)補給などの栄養管理、日常生活の不安への相談に応じ、患者様が安心して治療を継続できるよう全力で支えます。

■ まとめ:進行期でも諦めない、早期発見と最新医療の融合を

肝細胞がんの治療戦略は、免疫療法の進歩とコンバージョン手術の確立によって歴史的な転換期を迎えています。「進行しているからもう手遅れだ」と諦める時代は終わりつつあります。

しかし、どのような最新治療であっても、もっとも理想的なのは「がんが小さいうちに発見し、肝機能が保たれているうちに治療すること」に変わりはありません。 健康診断で肝臓の数値異常を指摘された方、長年脂肪肝やお酒の習慣がある方、ウイルス性肝炎の治療歴がある方は、決して自己判断で放置せず、肝臓病専門医による定期的な血液検査(AFP、PIVKA-IIを含む)と腹部超音波検査を受けてください。

さいとう内科クリニックでは、肝臓に関するあらゆるご不安に寄り添い、確かなエビデンスに基づいた診療を提供いたしますので、お気軽に当院までご相談ください。

この記事の監修・執筆者

さいとう内科クリニック
院長:斉藤 雅也 Masaya Saito

  • 日本内科学会認定医
  • 日本肝臓学会専門医
  • 日本消化器病学会専門医
  • 日本超音波医学会専門医
  • 日本消化器内視鏡学会専門医
院長 斉藤雅也 Masaya Saito

神戸大学医学部附属病院等の最前線で長年消化器・肝臓内科の臨床と研究に従事。医学博士。 標準治療では回復が困難な進行した肝炎や肝硬変に対し、新たな選択肢としての「肝臓再生医療」にいち早く取り組む。また、肝硬変患者さまの中で合併症(潜在性肝性脳症)を有する割合を明らかにし、カルニチンによる潜在性肝性脳症の治療効果を世界で初めて報告するなど、国際的な英文医学誌への論文掲載実績も多数(代表論文:Hepatol Res 2016; 46(2): 215-224)。科学的根拠に基づいた高度な専門知識と精緻な診断で、患者様の肝臓を守るサポートを行っています。
≫ 詳しい経歴や全研究実績はこちら

さいとう内科クリニック
院長
斉藤雅也 Masaya Saito
日本肝臓学会 肝臓病専門医 Hepatologist, The Japan Society of Hepatology
所在地
〒651-2412
兵庫県神戸市西区竜が岡1-15-3
(駐車場18台あり)
電話
  • 電話:078-967-0019
  • 携帯電話:080-7097-5109
アクセス
当院は、神戸市西区と明石市の境界付近に位置しており、明石市からも徒歩圏内です。実際に、明石市方面からも多くの患者様(肝臓病・一般内科)にご来院いただいております。駐車場も完備しておりますので、お車での通院も便利です。