• 2026年10月20日

E型肝炎は「レバーだけ」の問題ではない—豚肉・野生動物の生食リスクと急性肝炎の正しい知識

こんにちは。

神戸市西区のさいとう内科クリニック院長の斉藤雅也です。

2026年8月、公益財団法人ウイルス肝炎研究財団より「E型肝炎はレバーだけの問題ではない」というテーマで注意喚起が発信されました。

バーベキューを楽しむ季節や、秋の行楽・ジビエシーズンに向けて、豚肉や野生動物(イノシシ・シカなど)の生食・加熱不十分による「E型肝炎ウイルス(HEV)」の感染リスクが改めて警戒されています。

E型肝炎は国内ではどこか他人事のように思われがちですが、実際には年間数百件の感染が報告されており、決して珍しい病気ではありません。また、E型肝炎は、人畜共通感染症として、比較的メジャーな感染症です。特に、もともと肝臓に持病をお持ちの方やご高齢の方が感染すると、急激に重症化・劇症化する恐れがあります。

今回は、E型肝炎の正しい基礎知識から感染経路、命を守る予防法まで、肝臓病専門医の立場からわかりやすく解説します。

■1. E型肝炎とはどんな病気か

E型肝炎は、E型肝炎ウイルス(HEV)の経口感染によって発症する急性肝炎です。ウイルス性肝炎(A・B・C・D・E型)の中でも、日本国内において食べ物を介して感染する代表格がA型とこのE型です。

感染してからの潜伏期間は2〜9週間(平均約6週間)と比較的長いのが特徴です。

主な症状には以下のようなものがあります。

・全身の強いだるさ(倦怠感)
・発熱
・食欲不振、吐き気
・皮膚や白目が黄色くなる(黄疸)
・尿の色が濃いウーロン茶のようになる(ビリルビン尿)

健康な成人であれば、数週間の安静によって後遺症なく自然治癒することがほとんどです。しかし、肝機能が低下している方や高齢者が感染すると、肝細胞が急激に広範囲で破壊され、命に関わる「劇症肝炎」へと進行するリスクを常に孕んでいます。

■2. 感染経路:豚レバーだけではない、多様なリスク

かつて牛レバーの生食が禁止された後、2015年には食品衛生法に基づいて「生の豚肉・豚レバーなどの内臓」の提供・販売も全面的に禁止されました。しかし、E型肝炎のリスクは豚レバーだけにとどまりません。

① 豚肉全般(ロース・バラ・ひき肉など)

ウイルスはレバーだけでなく、筋肉(肉そのもの)や血液にも存在します。生焼けの豚肉、中まで火が通っていないハンバーグやソーセージなども感染源になります。

② 野生動物(ジビエ:イノシシ肉・シカ肉)

野生のイノシシやシカはHEVの抗体保有率が非常に高く、地域によっては数割の個体がウイルスを保持しています。「新鮮だから」「猟師さんから直接もらったから刺身で食べられる」というのは完全な誤解であり、極めて危険です。

③ バーベキューでの「トング・箸の交差汚染」

盲点になりやすいのが調理器具です。生肉をつかんだトングや箸で、そのまま焼き上がったお肉をつまんで口に運んでしまうと、付着したウイルスを直接摂取してしまいます。

ウイルスは「中心部まで75℃以上で1分間以上の加熱(または63℃で30分以上)」を行うことで確実に死滅します。生食を避け、中心部までしっかりと色が変わるまで火を通すことが絶対のルールです。

■3. 重症化しやすいハイリスクグループ

E型肝炎に感染した際、特に厳重な警戒が必要なのは以下の方々です。

慢性肝疾患をお持ちの方(肝硬変、慢性肝炎、脂肪肝炎・MASHなど)

もともと肝臓の予備能が落ちている状態のところに急性感染が重なると、急性増悪(ACLF:Acute-on-Chronic Liver Failure)を起こし、急激に肝不全に陥るリスクが極めて高くなります。

妊婦(特に妊娠後期)

妊娠中に初感染すると、劇症化しやすく母児ともに命の危険が生じることが世界的に知られています。

免疫抑制状態にある方(臓器移植後、抗がん剤や免疫抑制剤を使用中の方)

通常は一過性で終わるE型肝炎ですが、免疫が抑えられている状態ではウイルスが排除されず「慢性E型肝炎」へ移行し、短期間で肝線維化が進行することがあります。

■4. 院長の研究から—なぜ「日頃の線維化把握」が命を守るのか

私は肝臓病専門医として、肝硬変や慢性肝炎の診療・研究に長年携わってまいりました。

自らの臨床研究においても、体に負担の少ない血液マーカー(NX-PVKAなど)を用いて「肝臓の硬さ(線維化の進行度)」を高精度に評価する診断モデルを開発・発表してきました。

なぜ日頃の線維化の把握が重要かというと、自分では「少し脂肪肝があるだけ」「自覚症状はない」と思っていても、水面下で線維化が進んで肝硬変に近い状態になっている方が珍しくないからです。 そうした予備能の低い肝臓にE型肝炎のような急性ウイルス感染が加わると、わずかな炎症をきっかけに一気に肝不全へと転落してしまいます。

日頃からご自身の肝臓がどれくらい硬くなっているか(線維化のステージ)を把握しておくことは、予期せぬ感染や合併症から命を守るための最大の防波堤になります。

※出典:

■5. 当院でのE型肝炎の診断と対応

急激な肝機能障害や黄疸を疑う症状が現れた場合、当院では迅速な血液検査を行い、AST・ALT・総ビリルビン値の測定とともに、E型肝炎特異的な「HEV-IgA抗体検査」を実施して感染の有無を速やかに見極めます。

E型肝炎には特効薬となる特定の抗ウイルス薬が確立されていないため(免疫抑制下の慢性例を除く)、早期の安静、輸液管理、合併症対策などの対症療法が基本となります。症状が重い場合や劇症化の兆候がある場合は、速やかに高度医療機関と連携して集中的な治療へつなぎます。

「生焼けの肉を食べた後、数週間して急に体がだるくなった」 「白目が黄色い、尿が濃い茶色になった」 このような症状がある場合は、我慢せずに当院まで至急ご相談ください。受診の際は「いつ、何を食べたか」を医師に伝えていただくことが迅速な診断への鍵となります。

■6. まとめ—確実な加熱と定期的な肝臓チェックを

E型肝炎は現在、日本国内で承認されたワクチンがありません。そのため、最大の防御策は「食材を確実に加熱すること」、そして「生肉を触る箸と食べる箸をしっかり分けること」です。

そして何より、普段から健康診断での肝臓の数値を放置せず、ご自身の肝臓の状態を正確に知っておくことが大切です。

神戸市西区のさいとう内科クリニックでは、血液検査や超音波エラストグラフィ検査を用いた精密な肝線維化診断を行っております。

また、すでに肝硬変(Child-Pugh分類グレードCを含む)まで進行してしまった患者様に対しても、自己脂肪由来幹細胞治療(肝臓再生医療)という新たな治療選択肢をご提案しています。ご自身の細胞を用いて治療を行うため、拒絶反応が極めて少なく、安全性が高い治療です。

ご遠方の患者様やご家族のため、自宅にいながらスマートフォンでご相談いただける「オンライン事前相談」を実施しております。また、インターネットやスマートフォンの操作が難しい方は、診療時間内に当院までお電話にてお問い合わせいただいても構いません。院長の外来診療が落ち着きましたら、こちらからお電話をかけ直させていただきます。院長は、標準治療と再生医療の両方ともに精通しており、事前相談から、検査、脂肪採取、培養、幹細胞点滴、点滴後のフォローまで一貫して対応していますのでご安心ください。

医療は日々進歩していますので、他院で治療ができないと言われた肝硬変患者様も、決して諦めないでください。ご自身や大切なご家族の肝臓を守るために、気になる数値や症状がございましたら、一人で不安を抱え込むことなく、どうぞお気軽にお声がけください。現状を前向きにとらえて、当院と一緒に病気に立ち向かっていきましょう。

この記事の監修・執筆者

さいとう内科クリニック
院長:斉藤 雅也 Masaya Saito

  • 日本内科学会認定医
  • 日本肝臓学会専門医
  • 日本消化器病学会専門医
  • 日本超音波医学会専門医
  • 日本消化器内視鏡学会専門医
院長 斉藤雅也 Masaya Saito

神戸大学医学部附属病院等の最前線で長年消化器・肝臓内科の臨床と研究に従事。医学博士。 標準治療では回復が困難な進行した肝炎や肝硬変に対し、新たな選択肢としての「肝臓再生医療」にいち早く取り組む。また、肝硬変患者さまの中で合併症(潜在性肝性脳症)を有する割合を明らかにし、カルニチンによる潜在性肝性脳症の治療効果を世界で初めて報告するなど、国際的な英文医学誌への論文掲載実績も多数(代表論文:Hepatol Res 2016; 46(2): 215-224)。科学的根拠に基づいた高度な専門知識と精緻な診断で、患者様の肝臓を守るサポートを行っています。
≫ 詳しい経歴や全研究実績はこちら

さいとう内科クリニック
院長
斉藤雅也 Masaya Saito
日本肝臓学会 肝臓病専門医 Hepatologist, The Japan Society of Hepatology
所在地
〒651-2412
兵庫県神戸市西区竜が岡1-15-3
(駐車場18台あり)
電話
  • 電話:078-967-0019
  • 携帯電話:080-7097-5109
アクセス
当院は、神戸市西区と明石市の境界付近に位置しており、明石市からも徒歩圏内です。実際に、明石市方面からも多くの患者様(肝臓病・一般内科)にご来院いただいております。駐車場も完備しておりますので、お車での通院も便利です。