- 2026年10月23日
【肝臓病専門医が解説】危ない脂肪肝は血液でわかる?IgAと補体C7、2つの最新知見と肝臓再生医療の可能性

こんにちは。
神戸市西区のさいとう内科クリニック院長の斉藤雅也です。
「健康診断で脂肪肝と言われたけれど、自分は大丈夫だろうか」
外来でこのような不安を抱えてご相談に来られる方が増えています。
肥満や糖尿病などの代謝の乱れを背景にした脂肪肝(MASLD)は、日本でも非常にありふれた疾患です。脂肪肝の方の多くは大きな問題なく過ごせますが、一部の方は肝臓が徐々に硬くなり(線維化)、肝硬変や肝がんへと進んでしまいます。私たち肝臓病専門医にとっての大きな課題は、多くの脂肪肝の患者さんの中から、進みやすい人を早く見つけることです。
2026年、この課題に答える2つの画期的な研究成果が、信州大学を中心とする研究グループから相次いで発表されました。どちらも、採血で測る血液中の物質が、将来の肝硬変や肝がんへの進行リスクと関係していることを示したものです。
今回は、肝臓病専門医の立場から、この2つの新発見をわかりやすく解説するとともに、すでに肝硬変へと進行してしまった方への「肝臓再生医療」の治療選択肢についてもご紹介します。
■ 1. これまでの見分け方と、その限界
これまで、脂肪肝の方の将来リスクを見分ける主な手がかりは、肝臓の線維化(硬さ)の程度でした。線維化が進んでいるほど、肝硬変や肝がんに進みやすいことがわかっているためです。線維化の程度は、主に以下のような方法で調べます。
| 検査方法 | 内容 |
| 血液検査からの計算 | FIB-4インデックスなど。年齢・AST・ALT・血小板数から線維化を推定するスクリーニング指標 |
| 超音波エラストグラフィ | 特殊な超音波を用いて、肝臓の硬さを体の外から直接数値化する。痛みなく数分で完了 |
| 肝生検 | 針で肝臓の組織を採取して顕微鏡で調べる。最も確実だが、入院が必要など体への負担がある |
私自身、長年にわたり患者様のお体に負担をかけない非侵襲的な血液マーカーを用いた肝線維化予測モデルの研究に取り組んでまいりました。
[院長執筆論文]
Serum NX-DCP as a New Noninvasive Model to Predict Significant Liver Fibrosis in Chronic Hepatitis C
しかし実際の診療では、肝線維化の程度だけでは説明しきれないケースにも出会います。肝線維化がそれほど進んでいないのに肝がんが見つかる方もいれば、肝線維化が進んでいても長く安定している方もいます。
肝線維化とは別の物差しがあれば、危険な脂肪肝をもっと正確に見分けられるのではないか?
今回の2つの研究は、まさにこの問いに答えようとしたものです。
■ 2. 新発見① 血液のIgAが高い脂肪肝は要注意

[どんな研究か]
2026年7月、信州大学医学部の研究グループは、大垣市民病院・岐阜協立大学・大分大学などとの共同研究で、肝生検でMASLDと診断された349人のデータを解析しました。
(肝臓学の国際誌Journal of Hepatology掲載)
この研究の特徴は、病理の結果や予後といった答えを使わず、51項目の通常の診察・血液検査データだけをAI(機械学習)で解析し、患者さんを4つのグループに分けたことです。
[わかったこと]
- 4つのグループのうち、血液中のIgAが高いことが特徴のグループでは、5年間に肝関連イベントが起こった割合が24.0%と高くなっていました。
- このリスクの高さは、肝線維化の進行度を考慮しても残りました。
- 血液中のIgAが318mg/dL以上の人は、肝線維化とは別に、肝関連イベントのリスクが約3.2倍(ハザード比3.17)に跳ね上がりました。
- この関連は、別の患者さん287人(エラストグラフィで評価)と、他の複数施設の患者さん272人のデータでも確かめられました。
※肝関連イベントとは:肝がん・治療が必要な静脈瘤・入院が必要な腹水・肝性脳症など、肝臓の病気が進んだことによる重い合併症のことです。
[IgAとは? なぜ腸が関係するのか]
IgAは体を守る抗体の一種で、とくに腸の粘膜でたくさん作られ、腸内細菌などから体を守る役割を担っています。研究グループは、IgAを介した腸と肝臓の免疫のつながりが、脂肪肝の進行に関わっている可能性を示しました。
そして、IgAは一般の診療でも測ることができる検査項目です。今ある検査を肝線維化の評価に加えることで、より精密にリスクを見積もれる可能性がある点が、この研究の大きな意義です。
■ 3. 新発見② 血液の補体C7が肝線維化と将来のリスクを映す

[どんな研究か]
2026年7月には、同じく信州大学医学部の研究グループが、米国・インドの研究機関との国際共同研究の成果を発表しました。
注目したのは補体C7というタンパク質です。補体は体を守る免疫の仕組みの一部を担うタンパク質のグループで、C7はその一つです。
[わかったこと]
- 肝線維化が進むほどC7が高くなる:肝生検を受けたMASLDの患者さん430人を調べたところ、肝臓の線維化が進むほど、血液中のC7が高くなっていました。
- C7が高い人は将来の合併症が多い:血液中のC7が140μg/mL以上の患者さんでは、肝がんなどの肝関連イベントが多く見られました。この関連は、別の日本人患者さん120人と、英国の大規模データ4,486人でも確かめられました。
- C7は線維化した部分から出ている:肝臓の詳しい解析で、C7は線維化した部分に多く、線維を作る役割をもつ肝臓の細胞(肝星細胞)に由来することが示されました。培養細胞でC7の働きを抑えると、線維化に関わる遺伝子の働きが弱まることも確認されました。
つまりC7は、単なる目印であるだけでなく、肝線維化そのものに関わっている可能性もあるのです。
研究グループも述べているとおり、C7は現時点では研究段階の指標です。一般の診療や健康診断で測れるようになるには、さらに検証が必要です。
■ 4. 2つの発見が意味すること
2つの研究を並べてみると、次のように整理できます。
| 項目 | IgA | 補体C7 |
| 発表時期 | 2026年7月 (Journal of Hepatology) | 2026年10月 (JHEP Reports) |
| 何を映すか | 腸と肝臓の免疫のつながり | 肝臓の線維化そのもの |
| 線維化との関係 | 線維化とは別にリスクを予測 | 線維化が進むほど高くなる |
| リスクの目安 | 318mg/dL以上でリスク約3.2倍 | 140μg/mL以上で肝関連イベントが多い |
| いま測れるか | 一般診療で測定できる | 研究段階 |
2つの研究に共通するメッセージは、脂肪肝とひとくくりにせず、一人ひとりの危険度を見分ける時代に入りつつあるということです。線維化の評価に加えて、腸と肝臓の免疫(IgA)や、線維化の勢い(C7)といった別の角度から肝臓を見ることで、肝硬変や肝がんへ進行しやすい人をより早く、より正確に見つけられるようになるかもしれません。なお、IgAはほかの病気(IgA腎症など)でも高くなることがあるため、数値の評価は必ず担当医と一緒に行うことが大切です。また、いずれの研究も今後さらに多くの患者さんでの検証が必要であり、現時点では補助的な指標として位置づけられています。
■ 5. 肝硬変と診断された方へ:再生医療と合併症の管理

[自己脂肪由来幹細胞治療(肝臓再生医療)という治療選択肢]
精密検査の結果、実際に肝臓の線維化が進行し「肝硬変」の段階に入っていると診断された場合でも、決して諦める必要はありません。
従来の標準治療では、不足した栄養素を補う対症療法が中心となり、硬くなった肝臓そのものを修復する手段は非常に限られていました。そこで当院では、厚生労働省に再生医療等提供計画を申請・受理された医療機関として、「自己脂肪由来幹細胞治療(肝臓再生医療・自由診療)」をご提案しております。
患者様ご自身のお尻の皮下脂肪から少量の脂肪組織を採取し、そこから抽出した幹細胞を専門の施設で安全に培養・増殖させ、点滴によって体内に戻す治療法です。血管を通じて肝臓に集まった幹細胞は、慢性的な炎症を鎮め、線維化の進展を抑えるとともに、残された元気な肝細胞が働きやすい環境を整えます。ご自身の細胞を使用するため、拒絶反応のリスクが極めて低いのが大きな特徴です。
1回の脂肪採取(局所麻酔下の小切開)で、約6回分の点滴に使用できる幹細胞を種細胞として凍結保管することが可能です。2回目以降の治療の際は、保管した細胞から約8週間かけて新たに培養を行うため、再度脂肪を採取する負担はありません。点滴を受けるタイミングで出来上がったばかりの新しい幹細胞を点滴できるため、肝臓再生能が高い状態で治療できます。
再生医療は、残された肝臓の「自ら回復しようとする力」を強力に支える治療です。腹水や黄疸、肝性脳症、下肢のむくみなどが出現している非代償性肝硬変(Child-Pugh分類C)の患者様にも適応がありますが、活動性の悪性腫瘍(治療できない肝がんなど)がある場合や、当院への通院が体力的に難しい場合は対象外となります。体力が残っている段階のほうが再生医療による治療効果を引き出しやすいため、病状が進行しすぎる前にご相談いただく方が望ましいです。
[肝硬変の合併症:当院での微小肝性脳症への対応]
私は肝臓病専門医として、肝硬変患者様におけるエルカルニチン(L-カルニチン)の臨床的有効性について研究を重ねてまいりました。
微小肝性脳症は、見た目には症状がないものの、集中力や反応の速さが低下している状態です。車の運転能力が落ち、交通事故のリスクも高まります。放置すると、3年以内に半数以上の方が、はっきりした肝性脳症へ進むとされています。
当院院長が神戸大学で行った研究では、肝硬変の患者さん64名に、8種類の検査からなる神経心理検査(NPテスト)を受けていただきました。その結果、37.5%にあたる24名に微小肝性脳症が見つかりました。この24名にエルカルニチン(1日1,800mg)を3か月間内服していただいたところ、45.8%にあたる11名で脳症が改善しました。
特に改善が目立ったのは、数字と文字を順番につなぐ検査(NCT-B)と、反応の速さをみる検査(RTT-C)です。脳症が改善した方では、NCT-Bの成績が36.4%、RTT-Cの成績が54.5%の方で良くなりました。一方、改善しなかった方では、それぞれ0%と7.7%にとどまりました。
では、なぜ効果が出る方と出にくい方がいるのでしょうか。その鍵となったのが、血液中のタウリンというアミノ酸です。治療前のタウリン値が高い方ほど効果が出やすい傾向がありました。48.5 nmol/mLを基準にすると、効果が出にくい方の9割以上を治療前に見分けることができました。
エルカルニチンは、細胞のエネルギー工場であるミトコンドリアの働きを助ける成分です。一方、タウリンにはミトコンドリアそのものを守る働きがあります。ミトコンドリアが元気な方ほど、エルカルニチンが取り込まれやすいと考えられます。今後は、エルカルニチンとタウリンを組み合わせた治療も期待されます。この研究成果は、Saito M, et al. Hepatol Res 2016; 46: 215-224に掲載されており、エルカルニチンが微小肝性脳症の治療において重要な役割を果たすことを科学的に実証したものです。
当院では、エルカルニチンをラクツロース、リファキシミン、BCAAといった既存の治療薬と組み合わせることで、より包括的・個別化された肝性脳症の治療・再発予防に取り組んでいます。
[院長執筆論文]
肝硬変および潜在性肝性脳症患者におけるL-カルニチン補充療法の有効性と血清タウリン値の関連
[院長執筆論文]
もの忘れ・睡眠リズムの乱れ・日中の強い眠気など、肝性脳症を疑う症状がある方、または肝硬変と診断されている方は、こうした合併症の管理についても気軽に当院までご相談ください。
■ 6. 費用・リスク・届出に関する情報
本治療は公的医療保険が適用されない自由診療となります。
| 項目 | 費用(税込) |
| 初回(脂肪採取+培養+1回目の幹細胞点滴) | 3,300,000円 |
| 2回目以降の幹細胞点滴(1回あたり) | 1,100,000円 |
| 照射濃厚血小板10単位(採取前に輸血が必要な場合) | 220,000円 |
| 新鮮凍結血漿6単位(採取前に輸血が必要な場合) | 220,000円 |
主なリスクや副作用:脂肪採取部位の痛み・内出血・感染、点滴時の発熱やアレルギー反応などが稀に起こる可能性があります。また、治療効果には個人差があり、すべての方に同一の改善をお約束するものではありません。
[届出情報]
| ・治療名:自己脂肪由来幹細胞を用いた肝機能障害治療 ・再生医療等提供計画番号:PB5230080 ・審査委員会:日本再生医療協会 特定認定再生医療等委員会(認定番号 NA8200001) ・細胞培養施設:CZEN CLINIC Cell Processing Center(施設番号 FC3220189) ・提供機関:医療法人社団好也会 さいとう内科クリニック(管理者 斉藤雅也) |
■ 一人ひとりの脂肪肝の危険度を正確に知るために

脂肪肝(MASLD)はありふれた病気ですが、全員が同じリスクを抱えているわけではありません。今回ご紹介した2つの研究は、「どの人の脂肪肝が危ないのか」を血液検査から見分けるための新しい視点を示しています。
・IgAを指標とした研究(Journal of Hepatology, 2026年7月)では、血中IgAが高い脂肪肝の患者さんは、肝線維化の程度にかかわらず将来の重い合併症リスクが約3.2倍になることが示されました。
・補体C7を指標とした研究(JHEP Reports, 2026年7月)では、血中C7が肝線維化の進み具合と将来のリスクを映すことが示されました。C7はまだ研究段階の指標ですが、肝線維化そのものに関与している可能性が示唆されています。
・2つの研究に共通するのは、肝線維化という一つの物差しだけでなく、複数の角度から肝臓を評価することで、危険な脂肪肝をより早く見つけられるという考え方です。
当院では、肝臓病専門医である院長が、詳細な血液検査、腹部超音波検査、超音波エラストグラフィ検査、そして肝臓再生医療の適応判断から合併症管理までを一貫してサポートしております。日本全国、海外から多くの肝硬変患者様が来院されており、豊富な診療実績もあります。
肝硬変の治療は医療の進歩により着実に進化しています。他院で治療法がないと言われて途方に暮れている方はどうか諦めないでください。当院と一緒に力を合わせて病気に立ち向かっていきましょう。
■ 参考論文・資料
- IgA-enriched phenotype predicts liver-related events in MASLD(Journal of Hepatology, 2026年7月)
- Integrative Multi-Omics Analysis Identifies Stellate Cell-Derived Complement Component 7 as a Predictor of Fibrosis and Liver-Related Events in MASLD Patients(JHEP Reports, 2026年7月)
- Serum NX-DCP as a New Noninvasive Model to Predict Significant Liver Fibrosis in Chronic Hepatitis C(Hepatitis Monthly, 2015)
- Serum level of taurine would be associated with the amelioration of minimal hepatic encephalopathy in cirrhotic patients(Hepatology Research, 2016)
- 肝硬変患者に対するカルニチン補充療法の意義(臨床消化器内科, 2017)
- 院長
- 斉藤雅也 Masaya Saito
日本肝臓学会 肝臓病専門医 Hepatologist, The Japan Society of Hepatology - 所在地
- 〒651-2412
兵庫県神戸市西区竜が岡1-15-3
(駐車場18台あり) - 電話
-
- 電話:078-967-0019
- 携帯電話:080-7097-5109
- アクセス
- 当院は、神戸市西区と明石市の境界付近に位置しており、明石市からも徒歩圏内です。実際に、明石市方面からも多くの患者様(肝臓病・一般内科)にご来院いただいております。駐車場も完備しておりますので、お車での通院も便利です。