- 2025年10月14日
【医師が解説】肝臓の数値が高い…原因はストレス?AST・ALTが上がる仕組みと改善法

健康診断で「肝機能の数値が少し高いですね」と指摘されたことはありませんか?
「お酒はほとんど飲まないし、特に体調が悪いわけでもないのに、どうしてだろう?」
そう感じているなら、その原因は「ストレス」にあるのかもしれません。
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、症状が出にくいからこそ、血液検査の数値は体からの重要なサインです。この記事では、なぜストレスで肝臓の数値が上がるのか、そのメカニズムとご自身でできる対策、そして医療機関での適切な対応について、肝臓病専門医の視点から詳しく解説します。
そもそもAST(GOT)、ALT(GPT)とは?

まず、健康診断でよく目にする「AST(GOT)」と「ALT(GPT)」について簡単にご説明します。これらは肝臓の細胞内に存在する「酵素」です。
健康な状態では血液中にごく少量しか存在しませんが、何らかの原因で肝細胞がダメージを受けて壊れると、これらの酵素が血液中に漏れ出してきます。つまり、血液検査でのAST・ALTの数値の高さは、肝細胞がどれだけ壊れているかを示す指標となるのです。
一般的に、ALTの数値が31 IU/L以上になると「要注意」とされ、肝臓病専門医への相談が推奨されます。
なぜストレスで肝臓の数値が上がるのか?

ストレスが肝臓に直接影響を与える最大の理由は「自律神経の乱れ」にあります。
私たちの体は、活動的な時に優位になる「交感神経」と、リラックスしている時に優位になる「副交感神経」がバランスを取り合うことで正常に機能しています。しかし、過度な精神的ストレスが続くと、交感神経が常に緊張した状態になります。
交感神経が優位になると、血管が収縮し、肝臓へ供給される血液の量が減少します。肝臓は大量の血液を必要とする臓器であり、血流が不足すると、酸素や栄養が十分に行き渡らなくなり、肝細胞がダメージを受けてしまうのです。
その結果、暴飲暴食をしていなくても、ASTやALTの数値が上昇するという現象が起こります。
【セルフチェック】ストレスが引き起こす肝臓に悪い生活習慣

ストレスは、自律神経の乱れだけでなく、無意識のうちに肝臓へ負担をかける生活習慣を招くことがあります。以下のような習慣に心当たりはありませんか?
- 過食や偏食:ストレス発散のために甘いものや脂っこいものを食べ過ぎてしまう。食事のバランスが炭水化物に偏ってしまう。
- 睡眠不足:夜になっても交感神経が優位なままで寝付けない、または眠りが浅い。睡眠は肝臓が休息し、細胞を再生するための重要な時間です。睡眠不足は肝臓を休ませていないことを意味します。
- 飲酒量の増加:ストレスから逃れるために、ついお酒の量が増えてしまう。アルコールが肝臓に負担をかけることは言うまでもありません。
- サプリメントや健康食品の多用:体調不良を感じ、自己判断で様々なサプリメントや健康食品を服用する。サプリメントや健康食品の多くは肝臓で分解されるため、過剰な摂取は肝臓の負担を増大させます。
肝臓の数値を改善するために今日からできること

肝臓の数値を改善するには、ストレスの原因を遠ざけると共に、肝臓をいたわる生活を心がけることが大切です。
1.バランスの取れた食事を心がける
肝細胞の再生には、良質なたんぱく質(魚、肉、大豆製品など)と、その代謝を助けるビタミンB群が不可欠です。「主食・主菜・副菜」の揃った食事を基本としましょう。サプリメントや健康食品の摂取は、肝臓に負担をかけてしまうリスクがあるため禁物です。
2.質の良い睡眠を確保する
就寝1〜2時間前に入浴し、スマートフォンやテレビは避けてリラックスできる環境を整えましょう。肝臓が十分に休息・再生できる時間を確保することが重要です。
3.適度な運動を習慣にする
ウォーキングや軽いジョギング、ヨガなどの有酸素運動は、ストレス解消に非常に効果的です。また、脂肪燃焼を促進し、脂肪肝の予防・改善にも繋がります。「楽しく続けられる」運動を見つけることがポイントです。
【重要】ストレスだけではない、肝機能障害の多様な原因
ストレスが肝臓の数値に影響することは事実ですが、数値が高い原因がストレスだけとは限りません。自己判断で「ストレスのせいだ」と放置してしまうのは非常に危険です。
肝機能障害を引き起こす原因には、以下のようなものがあります。
- ウイルス性肝炎(B型肝炎、C型肝炎など)
- アルコール性肝障害
- 代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(NAFLD/NASH)(肥満、糖尿病などが原因)
- 薬剤性肝障害
- 自己免疫性肝疾患(自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎)
- 原発性硬化性胆管炎
これらの病気は、放置すると肝硬変や肝がんといった命に関わる状態に進行する可能性があります。
数値の異常は、肝臓病専門医への相談から始めましょう

健康診断で肝臓の数値の異常を指摘されたら、それはあなたの肝臓が発しているSOSサインです。ストレスが原因だとしても、その背景に別の病気が隠れている可能性も否定できません。
まずは肝臓病専門医に相談し、腹部超音波(エコー)検査や詳細な血液検査で、ご自身の肝臓が今どのような状態にあるのかを正確に把握することが何よりも大切です。
当院では、消化器病専門医・肝臓病専門医である院長が、専門的な視点からの診察で肝機能障害の原因を精査し、お一人おひとりに合わせた生活習慣の指導や専門的な治療を提供しています。
また、万が一、肝硬変へ進行してしまった場合でも、当院では肝臓再生医療という新しい選択肢もご用意しております。
「どうすればいいのだろう」と一人で悩まず、未来の健康への第一歩として、ぜひ一度、お気軽にご相談ください。