• 2026年7月6日

【肝臓病専門医が解説】肝硬変が「治る時代」へ——細胞を若返らせる肝臓再生医療の最前線

こんにちは。
神戸市西区のさいとう内科クリニック院長の斉藤雅也です。

2026年4月、長崎大学などの研究チームが「肝硬変患者の肝細胞を若返らせる」再生治療の世界初の臨床研究を開始したと発表し、多くのメディアで大きく報じられました。「肝硬変は治らない」という従来の常識が、いま大きく変わろうとしています。

この治療は、患者様自身の肝細胞を取り出し、薬剤を加えて分化・増殖できる「CLiP細胞(化学誘導肝前駆細胞)」へと変化させ、再び肝臓に戻して機能の回復を目指すというものです。国内の肝臓再生医療をリードする当院にとっても、非常に意義深いニュースです。今回は、肝硬変という病気の本質と、再生医療がもたらす新しい希望について解説します。

■1. 肝硬変とはどのような病気か

肝硬変とは、肝臓に長期間にわたって炎症が続いた結果、肝臓全体が硬く線維化し、本来の働きを果たせなくなった状態をいいます。B型・C型肝炎ウイルス、アルコール、そして近年急増している脂肪肝(MASLD/MASH)などが主な原因です。

肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、かなり障害が進むまで自覚症状が出にくいのが特徴です。肝硬変が進行すると、黄疸、腹水、足のむくみ、食道静脈瘤からの出血、肝性脳症といった深刻な合併症が現れ、肝臓がんの発生リスクも大きく高まります。かつて肝硬変は「不治の病」「一度なったら元に戻らない」というイメージが強い病気でした。しかし近年は、原因に対する治療が進歩し、再生医療という新しい治療法が台頭してきたため状況が変わりつつあります。

■2. 「治る時代」に近づいた背景

近年、肝硬変をめぐる状況が大きく改善した最大の理由は、原因疾患に対する治療の進歩です。C型肝炎は飲み薬(直接作用型抗ウイルス薬)でほぼウイルス根治が可能になり、B型肝炎もウイルスを長期にコントロールできるようになりました。

原因を取り除くことで、線維化の進行を緩やかにし、肝臓の状態がやや改善することも分かってきています。早い段階で原因に手を打てば、肝臓には本来、再生する力が備わっています。 そして今、その再生力をさらに後押しする「再生医療」という新しい治療法が、現実のものになろうとしています。この「再生医療」が台頭してきたことにより、「肝硬変は決して元に戻らない」という従来の常識は、必ずしも当てはまらなくなってきているのです。

■3. CLiP細胞による「細胞若返り」療法とは

2026年に長崎大学などが開始した臨床研究では、肝硬変の患者様から取り出した肝細胞に特定の薬剤を加えることで、分化や増殖が可能な「CLiP細胞」へと変化させます。いわば、傷んだ細胞を「若返らせる」という発想です。

この若返らせた細胞を患者様自身の肝臓に戻すことで、傷ついた肝組織の機能回復を目指します。患者様自身の細胞を用いるため、拒絶反応のリスクが低いことも大きな利点とされています。

また、東京大学医科学研究所のグループは、ヒトiPS細胞由来の肝臓オルガノイドを移植することで、肝機能や生存率だけでなく、肝線維化そのものが改善する可能性を報告しています。複数のアプローチから、肝臓再生医療の研究は着実に前進しています。

■4. 院長の研究から——肝線維化と栄養管理

私はこれまで、肝臓の線維化の評価や、肝臓病の患者様における栄養管理について長年研究を続けてまいりました。再生医療が注目される一方で、肝臓の機能を支える「土台づくり」として、線維化の進行を抑え、栄養状態を整えることは今も非常に重要です。

肝線維化の評価モデルや、肝性脳症・栄養管理に関する研究は、国際的な学術論文にて発表しております。再生医療という新しい治療と、日々の診療でできる地道なケアは、どちらも肝臓を守るうえで欠かせない両輪だと考えています。

※肝線維化の評価モデル(NX-PVKAを用いた予測)に関する院長の研究については、こちらの論文をご参照ください。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25788955

■5. 当院でできること——再生医療と日常診療

今回ニュースになったCLiP細胞などの最先端治療は、まだ臨床研究の段階にあり、すべての患者様がすぐに受けられるものではありません。また、この最先端治療には、肝臓に直接針を刺して肝組織を採取するという手技が含まれているため、肝機能がかなり悪い方(Child C)は、出血リスクが高すぎることから治療適応外となります。

しかし、当院はすでに、肝機能がかなり悪い方(Child C)を含めて、患者様ご自身の皮下脂肪から採取した幹細胞を用いた「自己脂肪由来幹細胞点滴療法」において安全性、有効性の両面で確かな実績があります。他の疾患への再生医療は一切行わず、肝臓病に特化した治療として、最新の知見を踏まえながら患者様お一人おひとりに合ったオーダーメイド治療をご提案しています。

肝硬変の管理では、原因疾患の治療、合併症の予防、栄養状態の最適化、そして肝臓がんの早期発見のための定期的な画像検査が柱になります。さらに、再生医療を行うことで肝臓のフルリノベーションを行います。これらを二本柱として丁寧に積み重ねることが、ご自身の持つ再生力を引き出す最大の土台となります。「肝硬変と言われてすっかりあきらめていた」という方こそ、ぜひ一度ご相談ください。どんなに肝機能が悪かろうが、当院までお越しいただき、肝臓再生医療を受けていただくことができれば、今は、肝臓に希望を持てる時代になってきているんだと自負しています。

■よくあるご質問(Q&A)

Q1. 肝硬変と診断されたら、もう再生医療しか方法はないのですか?

A1. いいえ。まずは原因(ウイルス性肝炎、アルコール、脂肪肝など)への治療と、合併症の管理、栄養状態の最適化が基本です。これらをしっかり行うだけでも、肝臓の状態が安定したり改善したりする方は少なくありません。再生医療はあくまで新しい治療選択肢の一つであり、土台となる日常の治療と一緒に、再生医療を合わせて行い、フルリノベーションしていくのが望ましいと考えています。

Q2. CLiP細胞による治療は、今すぐ受けられますか?

A2. 現時点では臨床研究の段階であり、長崎大学で慎重に進められています。また、肝臓に直接針を刺して肝組織を採取する手技を伴うため、肝機能が非常に悪い患者様(Child C)は出血リスクが高いことから治療適応外となります。一般の診療として広く受けられるようになるには、安全性と有効性を確認するためのさらなる研究が必要です。当院では、肝機能が非常に悪い患者様(Child C)を含めた肝疾患患者様に、体性幹細胞を用いた再生医療を実施しており、安全性、有効性の両面で確かな実績があります。他の疾患への再生医療は一切行わず、肝臓病に特化した治療として、最新の知見を踏まえながら患者様お一人おひとりに合ったオーダーメイド治療をご提案しています。

Q3. 肝硬変の進行を防ぐために、自分でできることはありますか?

A3. 節酒(できれば禁酒)や運動、バランスのよい食事と適切な栄養摂取、肥満や糖尿病の管理、そして定期的な腹部エコー検査による肝臓がんの早期発見が重要です。毎日の小さな積み重ねが、肝臓を守る大きな力になります。

Q4. 肝硬変の初期段階で気づくためのサインはありますか?

A4. 肝臓は「沈黙の臓器」のため、初期は自覚症状がほとんどありません。進行すると、強いだるさ、黄疸、腹水、足のむくみなどの症状が現れます。だからこそ、症状が出る前の定期的な血液検査や腹部エコー検査が、早期発見の唯一の鍵となります。

Q5. 再生医療には拒絶反応などの副作用はありますか?

A5. 今回の臨床研究で用いられるCLiP細胞や、当院で行っている体性幹細胞を用いた再生医療などは、患者様ご自身の細胞を使用するため、他人の細胞を移植する場合と比べて拒絶反応や重篤な副作用のリスクが極めて低いのが大きな特徴です。

■まとめ—肝臓を守るために今できること

「細胞を若返らせる」という肝臓再生医療のニュースは、肝硬変に悩む多くの方にとってとても勇気づけられます。研究はまだ途上ですが、肝硬変は決して「何もできない病気」ではありません。

一方で、最も確実なのは「肝硬変まで進ませないこと」です。ウイルス性肝炎の治療、節酒、脂肪肝の改善、そして定期的な血液検査や腹部エコー検査によって、肝臓を守ることは十分に可能です。今ある肝臓を大切にすることが、未来の治療選択肢を広げます。

神戸市西区のさいとう内科クリニックでは、肝臓病専門医が日常の肝臓病診療から、最新の知見を踏まえた肝臓再生医療まで、充実した内容の診療を行っています。肝臓のことでお悩みの方は、当院までどうぞお気軽にご相談ください。遠方にお住まいの方や、すぐに来院が難しい方のために、Curon(クロン)を利用したオンラインでの事前相談も受け付けております。また、パソコンやスマホの操作に不慣れな方は、当院の診療時間内にお電話でお問い合わせいただくことも可能です。外来診療が落ち着きましたら、こちらからお電話をかけ直させていただきます。どうぞ、お一人で悩まず、お気軽にお問い合わせください。

この記事の監修・執筆者

さいとう内科クリニック
院長:斉藤 雅也 Masaya Saito

  • 日本内科学会認定医
  • 日本肝臓学会専門医
  • 日本消化器病学会専門医
  • 日本超音波医学会専門医
  • 日本消化器内視鏡学会専門医
院長 斉藤雅也 Masaya Saito

神戸大学医学部附属病院等の最前線で長年消化器・肝臓内科の臨床と研究に従事。医学博士。 標準治療では回復が困難な進行した肝炎や肝硬変に対し、新たな選択肢としての「肝臓再生医療」にいち早く取り組む。また、肝硬変患者さまの中で合併症(潜在性肝性脳症)を有する割合を明らかにし、カルニチンによる潜在性肝性脳症の治療効果を世界で初めて報告するなど、国際的な英文医学誌への論文掲載実績も多数(代表論文:Hepatol Res 2016; 46(2): 215-224)。科学的根拠に基づいた高度な専門知識と精緻な診断で、患者様の肝臓を守るサポートを行っています。
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さいとう内科クリニック
院長
斉藤雅也 Masaya Saito
日本肝臓学会 肝臓病専門医 Hepatologist, The Japan Society of Hepatology
所在地
〒651-2412
兵庫県神戸市西区竜が岡1-15-3
(駐車場18台あり)
電話
  • 電話:078-967-0019
  • 携帯電話:080-7097-5109
アクセス
当院は、神戸市西区と明石市の境界付近に位置しており、明石市からも徒歩圏内です。実際に、明石市方面からも多くの患者様(肝臓病・一般内科)にご来院いただいております。駐車場も完備しておりますので、お車での通院も便利です。