- 2026年7月14日
【肝臓病専門医が解説】肝硬変診療ガイドライン2026年改訂版の注目ポイント—血小板減少・腹水・肝腎症候群の最新治療

こんにちは。
神戸市西区のさいとう内科クリニック院長の斉藤雅也です。
2026年春、肝硬変診療ガイドラインが2020年版(改訂第3版)から6年ぶりに改訂される見通しとなっています。Yahoo!ニュースや医療専門誌でも注目されているこの改訂について、肝臓病専門医として患者様にもわかりやすくポイントを解説します。
肝硬変は一度なってしまうと「治らない病気」というイメージがあるかもしれませんが、近年の治療の進歩により、合併症のコントロールや生活の質(QOL)の向上が大幅に改善されています。
■1. 肝硬変とは何か—基礎知識と重症度分類

肝硬変とは、慢性的な肝臓の炎症・線維化が極度に進行し、肝臓が硬くなり正常な肝組織が大幅に失われた状態です。原因としてはウイルス性肝炎(B型・C型)、アルコール性肝障害、MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)、自己免疫性肝疾患(自己免疫性肝炎や原発性胆汁性胆管炎)などが挙げられます。
肝硬変の重症度分類として広く使われるのが「Child-Pugh分類」と「MELD(Model for End-stage Liver Disease)スコア」です。Child-Pugh分類はビリルビン値、アルブミン値、プロトロンビン時間、腹水、肝性脳症の5項目をスコア化し、A(5〜6点)・B(7〜9点)・C(10〜15点)の3段階に分類します。Child-Pugh AはいわゆるCompensated cirrhosis(代償性肝硬変)で、BやCはDecompensated cirrhosis(非代償性肝硬変)に相当します。
代償性肝硬変の段階では明確な症状が出にくい一方、非代償性肝硬変になると腹水・黄疸・食道静脈瘤破裂・肝性脳症などの重篤な合併症が現れるようになります。これらの合併症の管理が、肝硬変治療の中心課題となります。
■2. 改訂の焦点①:血小板減少症への新薬(アバトロンボパグ・ルストロンボパグ)

肝硬変の患者様では脾臓の腫大(脾腫)による血小板の破壊・貯留と、肝臓での血小板産生因子(トロンボポエチン:TPO)の産生低下により、血小板数が著しく低下します。血小板が5万/μL以下に低下すると、手術・内視鏡処置・生検などの侵襲的処置時に出血リスクが高まるため、これまでは血小板輸血が必要でした。
2026年改訂ガイドラインでは、TPO受容体作動薬(トロンボポエチン受容体アゴニスト)の使用に関するエビデンスが新たに加わると注目されています。日本で承認されている「ルストロンボパグ(商品名:ムルプレタ)」はすでに保険適用となっており、「アバトロンボパグ(商品名:ドプテレット)」は海外で使用されているTPO受容体作動薬です。これらは内服薬として処置前に服用することで血小板を増加させ、血小板輸血を回避できるメリットがあります。
血小板輸血には発熱・アレルギー反応・同種免疫など副作用のリスクがあり、また血小板製剤の保存可能期間は採取後4日間と短く供給量にも限りがあります。TPO受容体作動薬の普及により、肝硬変の患者様の処置時の安全性が大幅に改善されることが期待されています。
■3. 改訂の焦点②:腹水・肝腎症候群への新たなアプローチ

腹水は肝硬変の最も頻度の高い合併症で、非代償性肝硬変の患者様の約50〜60%に認められます。肝硬変による門脈圧亢進と低アルブミン血症が腹水形成の主要因です。治療の基本は、塩分制限(6g/日未満)、トルバプタン内服、利尿薬(フロセミド+スピロノラクトン)の内服・点滴、アルブミン点滴の組み合わせです。
治療抵抗性の難治性腹水に対しては、腹腔穿刺(腹水ドレナージ)が行われますが、毎月複数回の通院が必要となり患者様の負担が大きくなります。ここで注目されているのが「テルリプレシン(Terlipressin)」の肝腎症候群(HRS)への応用です。
肝腎症候群(HRS)は、高度の肝硬変において腎臓の血流が著しく低下し、急性腎不全を来す重篤な合併症です。HRS-AKI(急性型)は予後不良で死亡率が高く、治療手段が限られてきましたが、血管収縮薬テルリプレシン+アルブミン投与による腎機能改善効果が複数の国際試験(CONFIRM試験など)で示されています。2026年のガイドライン改訂ではHRS-AKIへのテルリプレシンの推奨が加わる可能性が高く、今後の国内承認・保険適用の動向が注目されています。
■4. 院長の研究:肝線維化マーカーと肝性脳症の栄養管理

私はこれまで、肝硬変の合併症管理に関連する複数の研究を行ってきました。
肝線維化の評価については、論文「Hepatol Mon 2015; 15(2): e22978 ——NX-DCPモデルによる非侵襲的肝線維化診断」において、血液検査から得られるNX-DCPモデルを用いた非侵襲的な肝線維化診断法の有用性を検討しました。肝生検を行わずに肝臓の線維化ステージを推定できるこのモデルは、患者様の身体的負担を減らしながら早期に治療介入の判断を行うのに有用です。
※参考論文:
https://brieflands.com/journals/hepatmon/articles/15446
また、肝性脳症の栄養管理については、論文「Hepatol Res 2016; 46(2): 215-224」において、潜在性肝性脳症に対する「L-カルニチン」の補充効果と、その効果を予測する因子について検討しました。この研究では、治療前の血液中にある「タウリン」の濃度を調べることで、L-カルニチンによる治療効果が得られやすい患者様を事前に高い精度で予測できることを明らかにしました。これにより、患者様お一人おひとりに適した無駄のない栄養療法の選択が可能になります。
※参考論文:
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/hepr.12565
これらの研究を通じて培った知見を活かし、当院では肝硬変の患者様の血液検査・画像検査の結果を詳細に解析し、より精度の高い病態評価と治療方針の決定を行っています。
■5. 肝硬変の根治を目指す:再生医療という最新の治療選択肢

2026年4月、長崎大学病院などが世界で初めてCLiP細胞(Chemically-induced Liver Progenitor cells:化学誘導肝前駆細胞)を用いた肝硬変再生医療の臨床研究を開始したことが大きな話題となりました。肝硬変の患者様の肝臓に針を刺して一部の肝組織を採取し、得られた肝細胞に3種類の薬剤(低分子化合物)を加えて約90日間培養することで、肝細胞に分化できる能力を持つCLiP細胞を作製し、再び患者様の肝臓に戻すというアプローチです。
CLiP細胞の特長は、患者様自身の細胞を使うため拒絶反応が起きにくく、iPS細胞よりも大量培養が容易である点です。2028年3月までに3名に実施し安全性を確認、5〜10年後の実用化を目指しています。
ただ、肝臓に直接、針を刺して肝組織を回収するという手技が、侵襲度が高く出血リスクがあることから、Child-Pugh Cの非代償性肝硬変患者様では治療適応外であることは念頭に置いておく必要があります。
このような最先端の再生医療のニュースが広まるにつれて、当院でも、従来の標準治療(薬物療法・食事療法・合併症管理)に加えて、再生医療の適応についてのご相談が増えてきています。当院では2024年4月から、患者様ご自身のお尻の脂肪組織から抽出した幹細胞を用いた「自己脂肪由来幹細胞点滴療法」を提供しております。臨床研究段階のCLiP細胞による治療とは異なり、当院で提供している再生医療は、Child-Pugh Cの非代償性肝硬変患者様にも適応があり、今すぐ受けることができる再生医療として確かな実績を積んでおります。そして、日本国内だけに留まらず、海外の肝硬変患者様がわざわざ来日して受けに来られる新たな治療法として現在注目を浴びています。肝硬変と診断されている方で「再生医療について知りたい」「今の治療でよいのか確認したい」という方は、ぜひ当院までご相談ください。
■6. まとめ:肝硬変の管理は肝臓病専門医との継続的な連携が鍵

2026年の肝硬変診療ガイドライン改訂では、血小板減少症治療薬(ルストロンボパグ・アバトロンボパグ)の新たなエビデンス、肝腎症候群(HRS-AKI)へのテルリプレシンの使用、腹水管理の最新知見など、実臨床に直結する内容が更新される見込みです。
重要なのは、これらの治療の恩恵を最大限に受けるためには、早期からの肝臓病専門医による管理と、定期的な検査による合併症の早期発見が不可欠であるという点です。肝硬変は完全には元に戻りませんが、適切な管理によって代償期を長く維持し、生活の質(QOL)を保つことが十分に可能です。
神戸市西区のさいとう内科クリニックでは、肝臓病専門医として肝硬変の診断・治療・定期管理を行っています。「肝硬変と言われた」「肝硬変が疑われている」という方は、ぜひお気軽にご相談ください。血液検査・腹部エコーを用いた詳細な評価から、食事・生活習慣の改善指導、薬物療法の最適化、再生医療の適応判断・治療まで、一貫してサポートいたします。
遠方にお住まいの方や、すぐに来院が難しい方のために、Curon(クロン)を利用したオンラインでの事前相談も受け付けております。パソコンやスマホの操作に不慣れな方は、診療時間内であれば、お電話でお問い合わせいただけます。外来診療が落ち着きましたら、こちらからお電話をかけ直させていただきます。どうぞ、お一人で悩まず、お気軽にお問い合わせください。
- 院長
- 斉藤雅也 Masaya Saito
日本肝臓学会 肝臓病専門医 Hepatologist, The Japan Society of Hepatology - 所在地
- 〒651-2412
兵庫県神戸市西区竜が岡1-15-3
(駐車場18台あり) - 電話
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- 電話:078-967-0019
- 携帯電話:080-7097-5109
- アクセス
- 当院は、神戸市西区と明石市の境界付近に位置しており、明石市からも徒歩圏内です。実際に、明石市方面からも多くの患者様(肝臓病・一般内科)にご来院いただいております。駐車場も完備しておりますので、お車での通院も便利です。