• 2026年8月17日

肝硬変患者の3人に1人がサルコペニア。筋肉と肝臓の密接な関係と栄養・運動療法

こんにちは。

神戸市西区のさいとう内科クリニック院長の斉藤雅也です。

今回は「サルコペニア(筋肉量・筋力の低下)」と肝臓疾患の関係についてお話しします。

肝硬変患者の約3人に1人がサルコペニアを合併しているといわれており、サルコペニアが生じると肝疾患の予後が大きく悪化することが知られています。「肝臓の病気と筋肉が関係するの?」と疑問に思われる方も多いでしょう。

しかし肝臓と筋肉は実は非常に深いつながりを持っており、そのメカニズムと最新の対策を詳しく解説します。

■ 1. サルコペニアとは、そして肝疾患との関係

サルコペニアとは、加齢や疾患によって骨格筋の筋肉量・筋力・身体機能が低下した状態を指します。もともとは高齢者の問題として認識されていましたが、肝疾患(特に肝硬変)の患者さんでは若年者でもサルコペニアが生じやすいことが明らかになっています。

肝硬変患者を対象とした36研究・8,821名のメタアナリシスでは、約3分の1(33%)の患者がサルコペニアを合併していることが報告されており、サルコペニアを合併した肝硬変患者の死亡リスクは合併していない患者の約2倍に上ることが示されています。

さらに、サルコペニアは肝硬変だけでなく、MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)・慢性肝炎・肝がんでも高頻度に認められ、これらの疾患の進行・予後を悪化させる重要な合併症として位置づけられています。

日本肝臓学会は、肝疾患患者向けのサルコペニア判定基準を独自に定めており、握力・歩行速度・CT画像での筋肉量(腰椎レベルの骨格筋指数:SMI)を用いた評価が推奨されています。肝疾患のある患者さんを診察する際、私は定期的に握力の低下や歩行速度の低下がないか評価し、早期のサルコペニアを見逃さないよう努めています。

■ 2. なぜ肝疾患でサルコペニアが起きるのか——そのメカニズム

肝臓と筋肉は代謝において緊密に連携しています。肝臓が障害されると、以下のメカニズムによってサルコペニアが生じます。

エネルギー代謝の異常とBCAA消耗

健康な状態では食後に肝臓がグリコーゲン(糖の貯蔵形態)として余剰エネルギーを蓄え、空腹時にはこれを分解して全身にブドウ糖を供給します。しかし肝硬変ではグリコーゲン貯蔵能が著しく低下し、全身へのブドウ糖の供給が滞るため、空腹状態になると筋肉に含まれる分岐鎖アミノ酸(BCAA:バリン・ロイシン・イソロイシン)をエネルギー源として分解してしまいます。これが慢性的な筋タンパク質の消耗につながります。就寝中が最もグリコーゲンを使い果たしやすい時間帯であるため、就寝前の軽食(LES)が有効な理由がここにあります。

アンモニア代謝障害と筋肉の消耗

肝臓の機能が低下すると、腸内細菌が産生するアンモニアを尿素に変換する能力が落ちます。血中アンモニア濃度が上昇すると、代わりに筋肉がアンモニアの無毒化を担うようになり(グルタミン合成経路)、筋肉の消耗が加速します。サルコペニアが進むほどアンモニア処理能力が落ち、肝性脳症を発症するリスクが高まるという悪循環が生じます。

炎症性サイトカインによる筋萎縮

慢性肝疾患では、肝臓から炎症性サイトカイン(TNF-α・IL-6・IL-1βなど)が持続的に放出されます。これらは筋肉のタンパク質合成を抑制し、分解を促進するユビキチン-プロテアソーム系を活性化させることで「筋萎縮シグナル」が作動して、筋肉量が低下してしまいます。

食欲低下・低栄養

腹水・浮腫・腹部膨満感により食事摂取量が低下しやすく、タンパク質・カロリーの摂取不足が慢性化することで低栄養・筋肉量低下が進みます。また、腹水のある患者さんは腸の動きが低下して消化吸収能力も落ちるため、同じ量を食べても栄養が不足しがちになります。

身体活動の低下による廃用性筋萎縮

疲労感・息切れ・浮腫などによって日常的な身体活動量が低下し、廃用性の筋萎縮が加わります。肝硬変患者の安静にしがちな生活習慣がサルコペニアをさらに加速させます。

■ 3. サルコペニアを合併すると何が問題になるのか

サルコペニアが肝疾患に合併すると、以下のような深刻な問題が生じます。

予後の悪化・治療後の回復遅延

サルコペニアは肝硬変・肝がん患者の死亡リスクを高めます。手術・ラジオ波焼灼術・化学療法などの治療後の回復も遅くなり、在院日数の延長・合併症発生率の上昇につながります。

肝性脳症リスクの増大

アンモニアの無毒化を筋肉が担っているため、筋肉量が低下するとアンモニアの処理能力が落ち、肝性脳症(意識障害・認知機能低下・行動異常)が起きやすくなります。肝性脳症は一度発症すると再発しやすく、患者さんの生活の質(QOL)を著しく低下させます。

感染症への抵抗力の低下

筋肉はアミノ酸のリザーバーとして免疫細胞の原料を供給しています。筋肉量が低下すると免疫力が低下し、細菌性腹膜炎・肺炎・尿路感染症などにかかりやすくなります。

転倒・骨折・入院リスクの増加

筋力低下による転倒・骨折リスクが高まり、入院の長期化・QOLの低下につながります。特に肝性骨症(肝硬変に伴う骨粗鬆症)もある場合は骨折リスクがさらに高まります。

肝移植後の予後への影響

肝移植の候補者においてサルコペニアがあると、術後の回復が遅れ、術後生存率にも影響することが報告されています。移植待機中からの筋肉量の維持・改善が重要です。

■ 4. 院長によるBCAAと肝疾患の栄養管理における取り組み

私はBCAA(分岐鎖アミノ酸)などのアミノ酸代謝が、肝疾患においてどのような役割を果たすのかについて研究を行ってまいりました。

【BCAAと肝がん治療後の栄養管理】

肝がん治療後の患者様において、BCAA製剤の補充を行うことで全身のエネルギー代謝の状態(非蛋白呼吸商:npRQ)が有意に維持・改善し、サルコペニアの予防・改善に有効であることを報告しました。BCAAはエネルギー産生に使われるだけでなく、筋タンパク質合成のスイッチを入れる「mTORC1経路」を活性化させ、アンモニア代謝にも関与しています。

※出典:

【肝性脳症とエルカルニチン・タウリンの関係】

肝硬変の合併症である「潜在性肝性脳症」に対し、エルカルニチンの補充療法が有効であることを本邦で初めて報告しました。さらに、治療前の体内の「血清タウリン濃度」が高い患者様ほど、エルカルニチンによる肝性脳症の改善効果が得られやすいという新たな指標も発見しています。

※出典:

当院では肝疾患患者さんのサルコペニア評価・栄養介入を積極的に行っており、BCAA製剤(アミノレバン、リーバクト等)の適応を個別に判断しています。

■ 5. 当院のサルコペニア対策:栄養療法と運動療法の実践

肝疾患に合併したサルコペニアの治療は、栄養療法と運動療法の組み合わせが基本です。

【栄養療法の基本原則】

就寝前軽食(LES:Late Evening Snack)

夜間の空腹状態が最も全身の筋肉の分解を促進するため、就寝前に100〜200kcalの軽食(おにぎり・バナナ・BCAA含有補助食品など)をとることが推奨されています。これは日本肝臓学会のガイドラインでも強く推奨されている重要な栄養戦略です。

タンパク質の確保

1日のタンパク質摂取量は体重1kgあたり1.2〜1.5gが目標です。摂取が望ましいタンパク質として、魚、肉、大豆製品(豆腐など)を推奨しています。生食ではなく加熱したものを摂取しましょう。また、1口食べる毎に30回噛んで食べ、魚の小骨など固いものは飲み込まないようにしましょう。

BCAAの補充

食事だけでは足りない場合は、BCAA製剤の補充を行います。筋肉量の維持、QOLの向上に有効です。

【運動療法】

サルコペニアの改善には有酸素運動とレジスタンス訓練(筋力トレーニング)の組み合わせが有効です。患者さんの肝機能・体力に合わせて、ウォーキング(週3回・30分程度)や、椅子の背もたれにつかまりながら行うスクワット(週3回・1セット10回を1日3セット)といった軽い筋力トレーニングを指導しています。

肝硬変があっても、適切な運動は筋肉量を維持・改善し、予後を改善することが複数の研究で示されています。腹水がある場合は軽度の有酸素運動を中心に、安全に行える範囲での運動を勧めています。

■ 6. まとめ:肝臓と筋肉を同時に守ることが肝疾患治療の新常識

「肝臓の治療をしていれば筋肉は関係ない」という時代は終わりました。肝疾患の専門治療とともに、サルコペニアの評価と栄養・運動による積極的な介入を組み合わせることが、患者さんのQOL(生活の質)と生命予後を改善する上で不可欠です。

肝疾患を抱えている方、健康診断で肝機能異常を指摘された方、「最近、体力・筋力が落ちてきた気がする」「ふくらはぎの筋肉が細くなった」という方は、ぜひ当院にご相談ください。さいとう内科クリニック(神戸市西区)では、肝臓病専門医として肝臓の検査とともに、栄養状態・筋肉量の評価を行い、個別の治療計画をご提案します。

さらに、「肝硬変と診断されたが、どうすればいいか分からない」「標準治療だけでなく再生医療も試したい」「肝硬変の最新治療について相談したい」という方も、当院で相談可能です。

遠方にお住まいの方や、すぐに来院が難しい方のために、ご自宅にいながら診察を受けられるCuron(クロン)を利用したオンラインでの事前相談も受け付けております。パソコンやスマホの操作に不慣れな方は、診療時間内であれば、お電話でお問い合わせいただけます。外来診療が落ち着きましたら、こちらからお電話をかけ直させていただきます。どうぞ、お一人で悩まず、お気軽にお問い合わせください。

この記事の監修・執筆者

さいとう内科クリニック
院長:斉藤 雅也 Masaya Saito

  • 日本内科学会認定医
  • 日本肝臓学会専門医
  • 日本消化器病学会専門医
  • 日本超音波医学会専門医
  • 日本消化器内視鏡学会専門医
院長 斉藤雅也 Masaya Saito

神戸大学医学部附属病院等の最前線で長年消化器・肝臓内科の臨床と研究に従事。医学博士。 標準治療では回復が困難な進行した肝炎や肝硬変に対し、新たな選択肢としての「肝臓再生医療」にいち早く取り組む。また、肝硬変患者さまの中で合併症(潜在性肝性脳症)を有する割合を明らかにし、カルニチンによる潜在性肝性脳症の治療効果を世界で初めて報告するなど、国際的な英文医学誌への論文掲載実績も多数(代表論文:Hepatol Res 2016; 46(2): 215-224)。科学的根拠に基づいた高度な専門知識と精緻な診断で、患者様の肝臓を守るサポートを行っています。
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さいとう内科クリニック
院長
斉藤雅也 Masaya Saito
日本肝臓学会 肝臓病専門医 Hepatologist, The Japan Society of Hepatology
所在地
〒651-2412
兵庫県神戸市西区竜が岡1-15-3
(駐車場18台あり)
電話
  • 電話:078-967-0019
  • 携帯電話:080-7097-5109
アクセス
当院は、神戸市西区と明石市の境界付近に位置しており、明石市からも徒歩圏内です。実際に、明石市方面からも多くの患者様(肝臓病・一般内科)にご来院いただいております。駐車場も完備しておりますので、お車での通院も便利です。