- 2026年8月15日
- 2026年8月16日
肝性脳症とは何か:肝硬変患者に潜む意識障害のリスクと、エルカルニチン・タウリン・BCAAを用いた最新の薬物・栄養管理

こんにちは。
神戸市西区のさいとう内科クリニック院長の斉藤雅也です。
本日は、肝硬変の重篤な合併症のひとつである「肝性脳症」についてお話しします。肝性脳症は、肝臓の機能が著しく低下した患者さんに見られる、脳に影響を及ぼす病態です。
近年、その管理においてタウリンやBCAA(分岐鎖アミノ酸)を活用した栄養療法の有効性が医学的に注目されており、私自身もこのテーマで国際医学雑誌に多数論文を発表してきました。肝臓病専門医の視点から、患者さんやそのご家族の方に向けて、わかりやすく解説します。
■ 1. 肝硬変とは:肝臓が硬くなってしまう病気

肝硬変は、様々な慢性肝疾患(慢性肝炎・脂肪肝炎・アルコール性肝障害など)が長期間続いた結果、肝臓の正常な組織が線維組織に置き換わり、肝臓が硬くなった状態です。
日本では、かつてはB型・C型肝炎ウイルスによる肝硬変が大半を占めていましたが、B型肝炎の核酸アナログ製剤やC型肝炎の直接作用型抗ウイルス薬(DAA)の普及により、近年はアルコール性肝硬変やMASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)由来の肝硬変が増加しています。
肝硬変では、肝臓の解毒機能・タンパク質合成・糖代謝・脂質代謝などの機能が著しく低下します。その結果、様々な合併症(腹水、食道静脈瘤、浮腫、脳症、出血傾向など)が生じます。
重症度の評価にはChild-Pugh(チャイルド・ピュー)分類(A・B・Cの3段階)やMELDスコアが用いられます。中でも「肝性脳症」は患者さんの日常生活や生命予後に大きな影響を与える重篤な合併症であり、適切な管理によって発症を予防し、再発を大幅に減らすことができます。
■ 2. 肝性脳症とは:アンモニアが脳に毒を与える

肝性脳症とは、肝臓の機能不全(特に解毒能の低下)によって、通常なら肝臓で無毒化されるアンモニアなどの有害物質が血液中に蓄積し、脳に到達して神経機能を障害する病態です。
アンモニアは主に腸内細菌によるタンパク質の分解、および腸管からのグルタミン分解によって産生されます。健康な肝臓では、このアンモニアを「尿素サイクル」という経路で尿素に変換して無毒化します。しかし肝硬変では、この尿素サイクルの機能が低下しているため、アンモニアが血液中に滞留します(高アンモニア血症)。
肝性脳症の症状は、軽症から中等症、重症と幅広く存在します。
- 軽症: 注意力・集中力の低下、性格変化、睡眠障害
- 中等症: 見当識障害、判断力低下、羽ばたき振戦(手を広げたときに特徴的なばたつきが見られる)
- 重症: 昏睡
「潜在性肝性脳症(covert HE)」と呼ばれる症状が目立たない段階でも、運転能力や転倒リスクに影響することが知られており、患者さんの生活の質(QOL)を著しく低下させます。
■ 3. 肝性脳症のリスク因子と誘発要因

肝性脳症の発症リスクが高い方としては、Child-Pugh分類B・CまたはMELDスコアが高い重症肝硬変の患者さんが挙げられます。また、過去に肝性脳症のエピソードがある場合は再発リスクが高いことが知られており、特に注意が必要です。
肝性脳症の主な誘発要因
- 高タンパク食の過剰摂取(腸内でのアンモニア産生増加)
- 消化管出血(食道静脈瘤破裂など)
- 感染症(自然発症性細菌性腹膜炎・肺炎など)
- 利尿剤の過剰投与による脱水・電解質異常(低カリウム血症・低ナトリウム血症)
- 便秘(腸内でのアンモニア産生増加)
- 睡眠薬・鎮静薬の使用
これらの誘発因子を避けることが肝性脳症の予防において非常に重要です。
また、骨格筋量の低下(サルコペニア)も肝性脳症の重要なリスク因子です。骨格筋は、肝臓の代わりにアンモニアをグルタミンに変換する「アンモニア解毒装置」としての役割を果たしており、筋肉が減少するとアンモニアの処理能力が低下します。
肝硬変患者さんでは、食欲低下や慢性炎症・活動量の低下によってサルコペニアが高頻度に見られます。このため、肝硬変患者さんへの適切な運動療法と栄養管理が、肝性脳症予防において非常に重要です。
■ 4.肝性脳症とエネルギー代謝に関する院長の取り組み
【潜在性肝性脳症の割合と、エルカルニチン投与による脳症の改善率について】

院長は、肝硬変患者様における潜在性肝性脳症の割合が約37.5%であったことを世界で初めて明らかにしています。さらに、潜在性肝性脳症と診断した患者様にエルカルニチンを3カ月間投与したら、約45.8%の患者様に改善効果が得られたことを国際医学雑誌で発表しています。また、エルカルニチン投与前の血清タウリン値が高いほど、潜在性肝性脳症の改善が得られやすいことも明らかにしています。血清タウリン値を事前に調べることで、エルカルニチンによる改善効果が得られやすい患者層を適切に選択し、効率的な治療計画や医療費の適正化に繋げられる可能性についても示しています。
タウリンはアンモニア代謝経路に作用し、高アンモニア血症の改善に寄与する可能性があります。また、肝臓における酸化ストレスを軽減して肝細胞を保護する作用や、胆汁酸の抱合に関与して腸内環境を整え、アンモニア産生を抑える働きも注目されています。
※出典:
【BCAAによるエネルギー代謝・肝機能の改善について】
また、BCAA(分岐鎖アミノ酸)を用いた栄養管理に関する論文も国際医学雑誌で発表しています。BCAA(バリン・ロイシン・イソロイシン)は肝臓での代謝を受けず、主に骨格筋でエネルギー源として利用されます。肝硬変や肝がんの患者さんでは血中BCAAが著しく低下し、エネルギー代謝の低下やアミノ酸バランスの崩れを引き起こすことが知られています。院長は、ラジオ波焼灼療法(RFA)を受けた肝がん患者さんにおいて、BCAA補充療法が全身のエネルギー代謝(非タンパク質呼吸商:npRQ)および肝機能(血清アルブミン値)を有意に改善することを報告しました。
※出典:
■ 5. 当院での肝性脳症の診断・治療アプローチ

さいとう内科クリニックでは、肝硬変患者さんを対象に、肝性脳症の予防・管理に包括的に取り組んでいます。血中アンモニア値の定期測定、神経心理学的検査(潜在性肝性脳症のスクリーニング)、栄養評価を組み合わせた管理を行っています。
治療の柱は以下の3点です。
① 薬物療法(アンモニア産生・吸収の抑制、代謝の改善)
ラクツロースやエルカルニチンなどを使用します。ラクツロースは腸管内pHを下げてアンモニアの産生・吸収を抑制し、便通を促進します。エルカルニチンは肝機能低下によるエネルギー代謝やアンモニア代謝を改善し、再発予防にも高い有効性が示されています。
② BCAA製剤による栄養管理
BCAA製剤(リーバクト顆粒やアミノレバンENなど)を活用します。特に就寝前にBCAAを含む軽食を摂る「夜食療法(LES:late evening snack)」は、夜間の異化亢進(筋肉の分解)を防ぎ、アンモニア処理能力を維持・向上させるために効果的です。日本では肝硬変に対するBCAA製剤が保険収載されており、当院でも積極的に活用しています。
③ 運動療法・食事指導
適切な運動(レジスタンス運動+有酸素運動)により筋肉量の維持・増加を目指します。食事面では、タウリンが豊富に含まれる魚介類・貝類(タコ・イカ・カキなど)を肝臓にやさしい食材として推奨しています。また、肝硬変患者さんで頻見される亜鉛欠乏に対して亜鉛補充を行うことも、高アンモニア血症の改善に重要です。
■ 6. まとめ:肝性脳症は予防・管理できる合併症

肝性脳症は怖い合併症ですが、適切な管理によって発症を予防し、再発を減らすことが可能です。そのためには、肝硬変の早期発見・継続的な専門医フォロー・適切な薬物療法・栄養管理・運動・食事療法の組み合わせが重要です。
エルカルニチンやタウリン、BCAAなどの栄養素が肝性脳症の管理に役立つ可能性については、私自身の研究を含む多くの医学的エビデンスが蓄積されています。患者さん一人ひとりの栄養状態・筋肉量・アンモニア値を評価し、個別に最適化された栄養管理を行うことが、肝性脳症の予防・改善に大きく貢献します。
神戸市西区のさいとう内科クリニックでは、肝臓病専門医として肝硬変と肝性脳症の管理において最新の医学的エビデンスに基づいた診療を提供しています。
- 「肝硬変と言われた」
- 「以前に肝性脳症を経験した」
- 「アンモニア値が高いと言われた」
- 「肝臓の数値が悪く心配」
少なくともこれらに該当する方は、どうか一人で悩まず、一度当院にご相談ください。当院では、血液検査や腹部エコー検査による精緻な肝機能評価、肝硬度測定による肝線維化の評価、エルカルニチン、BCAA等を用いた薬物・栄養療法、運動療法、タウリンを豊富に含んだ食事療法を行っています。進行した肝硬変の患者様に対しては、ご自身の細胞を用いた最先端の「肝臓再生医療(自己脂肪由来幹細胞療法)」という治療選択肢もご提案しています。
遠方にお住まいで通院が難しい方のために、ご自宅にいながらスマートフォンで受診できるオンライン事前相談(Curon)の体制を整えております。また、インターネットの操作が苦手な方は、診療時間内にお電話をいただいても構いません。院長の外来診療が落ち着きましたら、こちらからお電話をかけ直させていただきます。
患者さんの肝臓の健康と生活の質を守るために、スタッフ一同、全力でサポートいたします。新しい健やかな未来への一歩を、勇気を出して、一緒に踏み出しましょう。
- 院長
- 斉藤雅也 Masaya Saito
日本肝臓学会 肝臓病専門医 Hepatologist, The Japan Society of Hepatology - 所在地
- 〒651-2412
兵庫県神戸市西区竜が岡1-15-3
(駐車場18台あり) - 電話
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- 電話:078-967-0019
- 携帯電話:080-7097-5109
- アクセス
- 当院は、神戸市西区と明石市の境界付近に位置しており、明石市からも徒歩圏内です。実際に、明石市方面からも多くの患者様(肝臓病・一般内科)にご来院いただいております。駐車場も完備しておりますので、お車での通院も便利です。
