• 2026年9月12日

「静かな殺し屋」B型肝炎に光。5人に1人が「機能的治癒」を達成した革新的新薬

こんにちは。

神戸市西区のさいとう内科クリニック院長の斉藤雅也です。

世界で2億5000万人以上が抱え、肝がんの主要な原因となっているB型慢性肝炎。これまで、ウイルスを完全に排除することはきわめて難しく、患者様は生涯にわたり薬を飲み続けなければなりませんでした。

しかし今、その歴史が大きく変わろうとしています。B型慢性肝炎を「治癒」できる可能性を秘めた革新的な新薬、ベピロビルセンの臨床試験で驚くべき結果が発表されたのです。専門家が「待望の治癒に近づく」と評するこの新薬。これまでの薬と何が違うのか、そしてどのような未来が待っているのか、分かりやすく解説します。

■ B型肝炎とは?サイレントキラーの脅威

まず、B型肝炎がなぜそれほど恐れられているのかをおさらいしましょう。B型肝炎ウイルス(HBV)は、血液や体液を介して感染する、非常に感染力の強いウイルスです。人体の外でも最大1週間にわたって感染力を持ち続けます。

最大の脅威は、感染しても多くの人が無症状のまま経過し、気づかないうちに肝臓を損傷し続けることにあります。そのため、WHOはB型肝炎を「サイレントキラー(静かな殺し屋)」と呼んでいます。世界では毎年100万人以上が合併症で亡くなっていますが、感染者のうち自分の病気に気づいているのはわずか13%にすぎないという推定もあります(日本では約110万人がウイルスを保有していると推定されています)。

放置すれば、長い時間をかけて肝炎、肝硬変、そして「肝がん」を引き起こす可能性があり、たばこに次いで強力な発がん因子とされています。生まれた直後に感染した場合、約90%の乳児が慢性感染へと移行してしまうのも特徴です。

これまでの治療と限界

B型肝炎は、1981年に導入されたワクチンにより感染予防が可能です。これは世界初の「抗がんワクチン」とも呼ばれています。しかし、すでに感染してしまった場合、これまでの治療には限界がありました。

現在使われている主な薬(核酸アナログ製剤)は、ウイルスの増殖を抑える効果はあるものの、ウイルスを完全に体内から排除することはほとんどできません。そのため、生涯にわたる服薬が必要となり、患者様にとっては経済的・精神的な負担となっていました。また、院長は核酸アナログ製剤の一つであるエンテカビルによる治療前のアルブミン値とプロトロンビン時間が、治療後の肝機能改善と関連することを示し、国際医学論文で発表しました。治療開始前に肝機能の評価をすることにより、核酸アナログ製剤による治療後の肝機能改善を事前に予測できるようになれば、患者様の肝炎治療に対するモチベーションアップに繋がるのではと考えています。

出典:

新薬ベピロビルセン:治癒へ導くダブルのアプローチ

今回発表されたベピロビルセン(第3相臨床試験結果)は、これまでの薬とはアプローチが根本的に異なります。治癒を目指すために、主に2つの作用が期待されています。

  1. ウイルス抑制: ウイルスのタンパク質とRNAの産生を直接抑え込みます。
  2. 免疫系の活性化: これが最大の特徴です。ベピロビルセンは、患者様自身の免疫系を刺激し、B型肝炎ウイルスを攻撃するように促します。つまり、免疫調節剤として機能し、体がウイルスを排除する手助けをするのです。

驚きの結果:5人に1人が「機能的治癒」達成

国際共同第3相臨床試験(B-Well試験)は、世界29カ国でB型慢性肝炎の成人約1800人を対象に実施され、その優れた有効性が発表されて世界中の肝臓病研究者に大きな衝撃を与えました。

現在の標準治療(核酸アナログ製剤)にベピロビルセンを加えたところ、参加者全体の約5人に1人(19%)が「機能的治癒」を達成しました。さらに、治療前のウイルス表面抗原(HBs抗原)濃度が低いグループでは、達成率が26%にまで達しています。

従来の標準治療単独では、長期間の治療を経ても機能的治癒に至る割合がわずか1〜3%程度にとどまっていたことを考えると、これは飛躍的な進歩です。

ここで言う「機能的治癒(Functional Cure)」とは、治療終了後も薬を飲み続けることなく、患者様自身の免疫力によってウイルス(HBV-DNAおよびHBs抗原)を少なくとも24週間(約6カ月間)以上にわたり検出限界以下に抑え込めている状態を指します。

※出典:

今後の展望と、日本での状況

この革新的な新薬(販売名:ヒブサゴ/一般名:ベピロビルセン)は、先駆的医薬品指定制度の対象となり、2026年8月に日本で世界初となる製造販売承認を取得しました。 今後、実際の臨床現場での処方が開始される見込みです。

ただし、注意点もあります。今回の試験では、肝硬変の患者様や肝不全患者様は除外されており、すべての人に同じ効果があるわけではありません。この薬は、病状がある程度コントロールされている患者様で最も高い効果を示しています。副作用についての慎重なモニタリングも必要です。

専門家は、治癒への道のりはまだ長いとしながらも、今回の結果はB型慢性肝炎医療における「重要な前進」であり、長年、治癒せずに苦悩に満ちた生活を余儀なくされていた患者様にとって大きな希望を与えるものであると院長も考えています。

まとめ

B型肝炎が「静かな流行」として恐れられる時代は、終わろうとしているのかもしれません。ベピロビルセンの登場は、B型肝炎を「ワクチンで予防可能」なだけでなく、「新薬で治癒可能」な病気へと変える可能性を秘めています。

引き続き、早期発見と適切な治療へのアクセスは重要ですが、これまでにない強力な武器を手に入れようとしていることは、世界中の何億人もの感染者にとって、この上なく明るいニュースです。

当院では、肝臓病専門医としての見地から、B型肝炎やC型肝炎をはじめとする各種肝疾患の検査、診断、治療、継続的な経過観察を行っております。「健康診断で肝機能の異常を指摘された」「ご自身の肝臓の状態が心配」という方は、どうぞお気軽に当院へご相談ください。

この記事の監修・執筆者

さいとう内科クリニック
院長:斉藤 雅也 Masaya Saito

  • 日本内科学会認定医
  • 日本肝臓学会専門医
  • 日本消化器病学会専門医
  • 日本超音波医学会専門医
  • 日本消化器内視鏡学会専門医
院長 斉藤雅也 Masaya Saito

神戸大学医学部附属病院等の最前線で長年消化器・肝臓内科の臨床と研究に従事。医学博士。 標準治療では回復が困難な進行した肝炎や肝硬変に対し、新たな選択肢としての「肝臓再生医療」にいち早く取り組む。また、肝硬変患者さまの中で合併症(潜在性肝性脳症)を有する割合を明らかにし、カルニチンによる潜在性肝性脳症の治療効果を世界で初めて報告するなど、国際的な英文医学誌への論文掲載実績も多数(代表論文:Hepatol Res 2016; 46(2): 215-224)。科学的根拠に基づいた高度な専門知識と精緻な診断で、患者様の肝臓を守るサポートを行っています。
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さいとう内科クリニック
院長
斉藤雅也 Masaya Saito
日本肝臓学会 肝臓病専門医 Hepatologist, The Japan Society of Hepatology
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兵庫県神戸市西区竜が岡1-15-3
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当院は、神戸市西区と明石市の境界付近に位置しており、明石市からも徒歩圏内です。実際に、明石市方面からも多くの患者様(肝臓病・一般内科)にご来院いただいております。駐車場も完備しておりますので、お車での通院も便利です。